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【2021.6.24 開催】予防歯科Live・オンラインセミナー【講演ダイジェスト】


セミナー情報

日時

  • 6月24日(木)

開催形式

  • オンラインセミナー(富士通株式会社 汐留オフィスより配信)

式次第

  1. ご挨拶
    【松野英幸 先生(M,デンタルクリニック松野歯科)】

  2. 予防歯科に対する富士通の取り組み
    【富士通Japan株式会社】

  3. 富士通予防歯科クラウドサービスのご説明
    【富士通Japan株式会社】

  4. 真似できない予防歯科医院を作ろう ~予防歯科におけるクラウドシステムの活用について~

  5. 【宮城和彦先生、宮野沙織里様(みやぎ歯科室 静岡県浜松市開業)】

講演ダイジェスト

ご挨拶

松野英幸 先生(M,デンタルクリニック松野歯科 院長)

 長年に亘り歯科の世界では、生活者に対して一方的な情報提供が行われてきました。これを双方向の関係性に変えたのが「富士通予防歯科クラウドサービス(以下クラウドサービス)」です。つまり生活者との情報格差を埋めることにより、歯科医療の受診の在り方を変えるためのツールなのです。

 情報を共有することで、生活者の意識や理解度、歯科のリテラシーをも向上させることが期待できます。同時に医院の透明性も担保されるため、信頼関係の構築にも大きく貢献してくれます。実際に利用されているOP(オーラルフィジシャン)医院の感想でも、「メインテナンスを提供する要因になった。」「健康維持のサポートや提案がしやすくなった。」等、クラウドサービスの有用性を裏付けるものが多いです。

 また私達OP医院と富士通社との関係はクラウドサービスだけに留まりません。ご存知の方も多いと思いますが、よりスケールアップしています。その一つに富士通グループ社員の歯科検診の受入れ先として、OP医院にご支援を募っています。言わば「“生活者自身”が“生活者”による“生活者”のための新しい健康維持・増進」を図っていただける様な新しい仕組みづくりに取り組んでいます。将来的には日本全国でこの様な歯科医療のかかり方の標準化を目指していますが、まずは富士通社がその先がけとなっていただいている訳です。決してクラウドサービスの利便性や検診による経済的恩恵で共同している訳ではございません。

 かつて皆さんがOP医院へと転換を図った際、多くの困難を乗り越えてこられたかと思います。同じく富士通社もクラウドサービスの開発に始まり、富士通健保組合と連携し歯科検診制度を立ち上げるまでに多くのご苦労をいただいております。“それぞれ”が“それぞれ”の物語を共有し、いずれもが自らの理念に沿った生き方を選択している訳です。長期的な視野を持って社会に貢献しようとする者同士が手を組み、社会の改革を進めようとしているのがクラウドサービスの実態です。決して情報共有だけが目的ではございません。

 この共通する理念と経験から生まれる社会的イノベーションがもたらす未来には、日本全国に健康維持を目的とした歯科医院に通う文化が根付いているはずです。それを実現し可能にするのが我々OP医院です。熊谷崇先生(日吉歯科診療所:山形県酒田市)がつくってくださった歯科医療の歴史にぜひ皆さんもご参加ください。今後クラウドサービスはOP医院にとって口腔内写真、サリバテスト、OHISと同じく標準的なシステムになって参ります、未導入の方はこの機会にご検討いただけましたら幸いです。


予防歯科に対する富士通の取り組み

乗次様(富士通Japan株式会社ヘルスケア事業本部)

【富士通グループ全社員向け予防歯科セミナーを実施】

 去る4/22(木)、弊社健康推進本部が主催となり、「富士通グループ全社員向け予防歯科セミナー「第3回 令和時代の予防歯科」を実施いたしました。なんと約3000名以上の申込みがあり(参加率95%)過去最大規模の社内セミナーとなりました。他の啓蒙セミナーと比較しても圧倒的に高い数字であり、弊社社員の予防歯科に対する関心の高さが伺えます。
 またセミナー後のアンケートでは約半数の方に回答をいただきました。その中の問いに『歯科医院からの情報の提供を希望する』に対して、約90%が希望すると回答いたしました。
 特に予防歯科医院をどのように探せばいいのか?というお声を非常に多くいただいています。全国で82,000人いる社員が“今”予防歯科医院を探そうとしています。ぜひOP医院の皆さんにご支援いただき「弊社社員の歯科検診の受け入れ」及び、「クラウドサービス」のご利用、口腔内情報の提供についてもご協力いただきたいと思っております。

【クラウドサービスの概要】

 本サービスは予防歯科医院と患者様をつなぐためのコミュニケーションツールです。通院される患者様の口腔内写真、レントゲン写真等に衛生士さんのコメントを添えて「医院PC・タブレット端末」から「患者様の端末」に届く仕組みになっています。そのため患者様は時間や場所に関係なく、いつでもご自身の口腔内情報(過去の履歴含め)を確認することができます。

【機能紹介】

主な機能は以下の2点です。

1.)診査結果報告書(詳細はコチラ)
患者目線・生活者目線のフォーマットで直観的でわかりやすい口腔情報の提供。
  • 目的
    -患者様の歯の本数など口腔内の情報をシンプルで分かりやすく伝えることで口腔状況への意識向上を狙う。
  • 機能
    -初診時からメインテナンス期以降の口腔状況をデータ蓄積し可視化する。
  • ポイント
    -患者様にとって最も馴染みのある数字をビジュアル化!
    -簡単に素早く作成できるので、診療中にもご活用いただけます!

2.)歯の健康ファイル(詳細はコチラ)
口腔内の状況をデータ化し、患者と共有することで歯科リテラシーを高め、継続的なメインテナンスへとつなげる。
  • 目的
    -データを共有することで口腔状況への理解を深める。
  • 機能
    -写真、レントゲン、各種資料やコメント入力を行い患者に提供する。
  • ポイント
    -より質の高いコミュニケーション、患者教育が実施できる。
    -その日の内容を患者が振り返ることができる。

真似できない予防歯科医院を作ろう
~予防歯科におけるクラウドシステムの活用について~

宮城和彦 先生(みやぎ歯科室 院長)

【お金では買えない価値を提供する】

 世間には予防歯科を掲げている歯科医院がたくさんあります。ただし玉石混交の状態で存在しており、生活者目線ではどこが良い歯科医院なのかはわかりません。
 そこでホームページの検索順位、SNS、口コミサイト等を参考にされる方も多いでしょう。しかしこれらはお金で解決できてしまうのです。歯科医院がお金さえ払えば生活者の目につき易くすることができます。一方でクラウドサービスに関して言えばお金では解決することができません。なぜなら患者さんに提供する資料は歯科医院で作成する必要があり、その資料とは「歯科医療者が診療を行ってきた結果であり、偽りのない事実」だからです。
 印刷で十分だと言う方もいらっしゃいますが、口腔内・レントゲン写真等は拡大すればする程その差は歴然です。例えば自分の診療がちせつだった場合、印刷では分からずとも、電子データではそれも患者さんに伝わってしまいます。クラウドサービスを利用するということは、良くも悪くも情報が筒抜けになるのです。

【真似できない価値を提供する】

 他医院での治療結果に疑問を感じて、当院に来院された患者さんがいました。早速レントゲンを撮影すると、そこにはずさんな治療結果が写っていました。当然ながらこのような歯科医院はクラウドサービスを利用できないでしょう。それは悪い情報も一目瞭然になるからです。つまり情報をオープンにするためには「質の高い歯科医療」が必要なのです。
 われわれOP医院の様に予防歯科をきちんと行い、クラウドサービスで情報を提供することが、歯科医療の価値向上に繋がると信じています。これは名ばかりの予防歯科医院には絶対に真似できません。


クラウドサービスの運用について

宮野沙織里 様(みやぎ歯科室 歯科衛生士)

【資料提供のタイミング】

 富士通の乗次さんの説明通り、クラウドサービスには主に2つの機能があります。当院ではこの「歯の健康ファイル」と「診査結果報告書」について、以下のタイミングで患者さんにお送りします。また患者さんに対する説明は「歯の健康ファイル」をもとに行っており、後で患者さんが一人で見ても理解できるような資料作成を心がけております。 ・歯の健康ファイル
患者教育時、覚えていただきたいこと、お伝えしたい事項がある時に送信。
・診査結果報告書
歯周精密検査、PCR検査(染め出し)結果を送信。

【院内での運用ルール】

どの患者さんにどの資料を送信したか、患者さんごとに表を作成しカルテに挟んでいます。これにより歯科医師、歯科衛生士、アシスタント全員で情報を共有しています。

上の3つの項目は同日に行うようにしています。本来患者さんの利用登録は患者さんの端末(スマホ・PC等)からご自分で登録していただくのですが、登録用のメールが届かない、メールを確認してもらえなかったことが多々あり、クラウド利用希望者にはその場で登録していただくことにしました。データ作成を分業化することにより、トリプルチェック体制、業務負担の軽減を実現しました。

【患者情報の管理・作成について】

 当院はDentalXRシステムで患者情報を管理しています。データ作成はiPadで行っており、富士通デザイン社が製作した、患者データ作成用「歯の健康ファイルクラウドテンプレート」を当院用にアレンジしたマスタースライドを使用しております。
 基本的にはマスタースライドにコメントを書いたり、画像を貼りつけたりするだけですので作成自体は容易になっています。

<作成イメージ>


【当院のクラウド活用状況】

・利用者数
約3ヶ月間で95人にご案内(2021/3/1~2021/6/15)
-希望する:72人
-希望しない:23人

・年齢構成
20代~50代が多く、60代でその半数となり、70代以降はほぼ利用者がいない。利用しない理由とは・・・
-ガラケーを利用している。
-スマホだが通話以外の操作方法が分からない。

・クラウドデータの閲覧状況(未読/既読)
<歯の健康ファイル>
合計54/86人(未読率39.5%)
-初診検査:24/45
-初期治療1:6/7
-初期治療2:9/8
-再評価1:3/5
-再評価2:12/21

<診査結果報告書>
合計39/61人(未読率39.0%)
-初診検査:23/37
-再評価1:2/6
-再評価2:12/16
-メインテナンス2/2


【運用後にわかったこと】
  • クラウドサービスを勧めた際に行うのは7~8割程度。
  • 60歳以上の参加者は5割程度。70歳以上になると極端に下がる。
  • 送った資料の開封率は6割程度。
  • 初期治療時の資料が読まれにくい傾向にある。


【運用するうえで心がけていること】
  • 情報はシンプルになるべく迅速に
    -患者さんの記憶に残る様に、文章は少なくして、重要なポイントだけを記載する。
    -来院当日に資料を送ることで、その日の復習をしていただきたい。


【サービス導入前の不安】
  • データ作成がたいへんではないか?
    →マスタースライドを用意し作成内容を決めたため、それほど大変ではない。
  • 作成時間はどれくらい要するのか?
    →1工程2~3分。トータルで平均10分くらい。
  • メールで利用者登録してくれるか?気付かないのでは?
    →気付かない人もいる。予約時間を多めに確保し、その場で登録するようにした。
  • どのくらいの人が自分の口腔内に関心を持ってくれるか?
    →未解決(患者の声 後述)


【サービス導入後の困ったこと】
  • メールアドレスの写し間違い。(oと0、大文字小文字、-と_など)
    →QRコード式の開発に期待。
  • データ未送信、未完成データの誤送信。
    →チェック表を作成し対応。
  • システムが不安定。落ちたり接続できなかったり。
    →全てのiPad、PCで作業できる環境について模索中。


【患者さんの声】
  • 今まで自分の歯をスマートフォンで見ることがなかったため、このようなサービスがあることに驚いた。
  • 自分の口腔内を見て過去に治療した詰め物が変色していたので、やり直したい。もっときれいにしたいのからホワイトニングもしたい。
  • データを見せてもらえると安心するし、ありがたい。
  • どこを治療したのかが分かる。

クラウドサービスによって患者さんの意識に変化が起こり口腔内を「自分ごと」として捉えてくれるようになった。また情報をオープンにすることによりさらなる信頼関係の構築も期待できる。



【自分たちへの効果】
  • いい加減な仕事をしていないということを証明できる。
  • 手を抜けない。

口腔内写真やレントゲン写真を提供し情報を開示することになるため、しっかりしたものを撮影しなくてはならない。また患者さん自身が治療前後の写真を比較して見れるようになるため、より責任感を持って仕事に取り組める。



【最後に】

 新しいシステムの導入は大変なこともありますが、患者さんと歯科医院の双方にメリットがあるサービスだと思います。今回紹介した活用事例・利用状況については、あくまでも当院の一例です。正解はございませんので、各医院それぞれの診療スタイルで上手く活用していただければと思っております。


これからのこと

宮城和彦 先生(みやぎ歯科室 院長)

【結果を残せる予防歯科】

 西真紀子先生が寄稿した記事(予防歯科で達成すべきアウトカム:クインテッセンス2021年6月号)をご紹介します。その中で西先生は『成人患者において長期メインテナンスで1人あたり平均喪失歯数が1本』という数値を提示したいと記述されています。引用データとして『アクセルソン博士の30年間』、『日吉歯科診療所の15年以上における結果』を提示されています。
 アクセルソン博士の冒頭6年間はコントロール群とメインテナンス群がありました。両者を比較するとメインテナンス群のう蝕の発生状況、歯周炎の発生状況は明らかに低くなっています。これらのことから、OPとして予防歯科を実践するからには、きちんと結果にこだわることが重要だと思います。

【オーラルフィジシャン=結果を残せる予防歯科】
  • 平均喪失歯数
  • う蝕発生状況
  • 歯周炎発生状況

これらを減少・抑制させる。

 クラウドサービスを上手に利用することで、より価値の高い予防歯科が提供できると思います。さらにOP医院同士が連携することで質の高い予防歯科が日本全国へと拡がるのではないでしょうか。その先の理想として「OP⇔OP、OP⇔患者」を繋ぐネットワークが構築できたら素晴らしいと思います。

【OPEN DENTISTRY】

 今後の目標は患者さんの帰宅途中にその日の診療内容を届けたいと思っています。「スマホで手軽に確認できる=安心」を提供したいのと同時に、患者さんにとって「届きやすい・使いやすい」というサービスを追求したいと思っています。また治療データについては質を担保できる様、必ずその前後の写真を提供するようにしています。私はこのことを「OPEN DENTISTRY」と呼んでいます。
 一般的に医療は情報が閉鎖されている分野であり、患者さんと医療者の間には少なからず隔たりがあります。1963年、東京大学名誉教授である冲中重雄氏(内科学者)は最後の講義で『私の誤診率は14.3%です』と語り周囲に衝撃を与えました。しかし、その衝撃というのは、医療者と生活者で全く逆のものでした。その数字は医療者から見るととても低く、生活者から見るととても高いものと捉えられたのです。医療は生体を扱う難しい分野のため必ずミスが起こるものだと思います。ただミスも含めて全体情報を公表するということに私は意味があると考えています。

【歯科医療人として】

 熊谷崇先生は本の中で『昔は、写真代だけで、ひと月30万円かかったんです。写真屋に払った総額で、土地を買えると思う。でも、一度もやめようとは思いませんでしたよ。予防歯科において、写真の価値は、土地よりもはるかに高いと信じていたから。お金には、代えられないのです。』と仰っています。
 現在はデジカメの普及によりフィルム代や写真を保管するスペースは必要ありません。そのため多くの歯科医師が写真撮影を取り入れています。ただ40年前のその環境の中で、規格性の高い写真を継続して撮るということを実践できる歯科医師がどれだけいたのでしょうか。
 私の好きな言葉にピーター・ティール(PayPal創業者)の『賛成する人がいない、大切な真実とはなにか。』という言葉があります。40年前の歯科界においてそれに該当するものは、口腔内写真をきちんと記録しておくことだったと思います。コストがもの凄くかかるうえ、すぐに利益には結び付きませんが、熊谷崇先生は正しいと思ったからやり続けてきたわけです。
 先述の通り、現代では口腔内写真は撮影しやすい環境が整っているため、多くの歯科医師が実践しています。そのため今は「賛成する人がいる、真実」になりました。では現代の歯科界でピーター・ティールの言葉に該当するものは何か?と考えますと、私はクラウドサービスではないかと思っています。医療業界は閉鎖的ですので、今後は情報をオープンにするということ自体が力を持ってくるのはではないでしょうか。
 引き続き富士通社には私達と一緒にがんばっていただきたいと思っております。歯科医療者が歯科界を良くしようと思っても、やはりテクノロジーの部分で限界があります。今後も社会問題の解決に向けて、一緒に汗を流すパートナーであってほしいと願っています。

引用)竹田晋也,歯を守れ!予防歯科に命を懸けた男 日吉歯科診療所・熊谷崇の挑戦,牧野出版

【最後に】

 現在、私は38歳であり、熊谷崇先生が酒田市で開業した年齢と同い年です。今後の歯科医師人生も永く何が正解かは分かりませんが、自分なりに正しいことを考え、その道を歩んでいきたいと思っております。この様な歯科医師としての生き方を教えてくれた熊谷崇先生、和久田一成先生(わくだ歯科 静岡県浜松市開業)には感謝しております。そしてOP医院の皆様とは、ぜひより良い社会を目指して、予防歯科を広める仲間として一緒にがんばっていきたいと思っております。
本日はどうもありがとうございました。

第4回「令和時代の予防歯科」セミナーレポート

予防歯科を社会に推進する富士通
全社員向け健康セミナー 第4回「令和時代の予防歯科」レポート


セミナー情報

日時

  • 4月22日(木)

開催形式

  • オンラインセミナー(富士通研究所 岡田記念ホールより配信)

式次第

  1. ご挨拶
    【東様(富士通健康推進本部 統括部長)・大浦様(富士通Japan株式会社ヘルスケア事業本部)・大越様(富士通健康保健組合)】

  2. 令和時代の予防歯科~予防歯科について概論~
    【畑慎太郎 先生(アップルデンタルセンター院長)】

  3. 令和時代の予防歯科~世代別のメインテナンス~
    【花岡佑み子 様(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)】

  4. Q&A

  5. 【参加者の皆様からの質問】

参加者

  • 約3000名

配信会場の様子


講演ダイジェスト

ご挨拶

大浦 様(富士通Japan株式会社ヘルスケア事業本部)
大越 様(富士通健康保健組合)

 本セミナーは富士通健康推進本部、富士通健康保健組合、富士通Japanヘルスケアソリューション開発本部の共同開催です。ヘルスケアソリューション開発本部では、世界的に予防歯科学で高名な熊谷崇先生(日吉歯科診療所:山形県酒田市 開業)と共同で「富士通歯科クラウドサービス」を開発し、予防歯科医院向けにサービスを提供しています。
 また社員への啓発活動にも取り組んでおり、過去に蒲田・品川の健康支援室と共同で予防歯科セミナーを開催し大変好評だったため、このたび全社健康経営推進施策の一環として開催するに至りました。お申込者は約3000名と当初の予定人数を大幅に上回り、皆様の予防歯科への興味、関心の高さを実感しています。


ご挨拶

東 様(富士通健康推進本部 統括部長)

 この度、初となる歯科の全社イベントを開催いたします。初開催ながらお申込者3000名というのは、過去最大規模の社内セミナーであると同時に、我々のこれまでの成果でもあります。そして皆様の反応は講演後のアンケートを通して、口腔から全身の健康へと繋げられる様に、次の施策を考えるための岐路にさせていただきたいと思っています。



令和時代の予防歯科 ~今からでも間に合います~

畑慎太郎 先生(アップルデンタルセンター院長)

【歯科医療の新しい価値・新しい形】

 約30年前までは80歳で2人に1人が総入れ歯という時代でした(2016年歯科疾患実態調査)。その後80歳で20本の歯を残す「8020運動」が開始されました。ただ時代ともに寿命も延びたため、そう簡単に口腔内のトレンドは変わりません。歯の減少を年齢のせいにする人もいますが、これがご自身の指だったらどうでしょうか?ことの重大さが分かるのではないでしょうか?あくまでも8020運動はむし歯洪水時代の旧常識です。現代の新常識は「KEEP28」。いくつになっても28本、全ての歯を守るための歯科医療を提供することが、「歯科医療の新しい価値・新しい形」だと考えます。

【歯を喪失する主な原因とその対策】

 喪失する原因の90%は「むし歯・歯周病・破折」です。これらの共通する問題点はただ歯を失うだけではなく、歯科にかかりながら口腔の健康を損ねている点です。
 またスウェーデンにあるアクセルソン博士の診療所では、メインテナンスを30年間(1972~2002年)継続調査したデータがあります。以下のデータからわかることは、歯は加齢により喪失するものではない。つまり、良質なメインテナンスプログラムは余計な治療を減らし歯の喪失を最小限にするのです。

【メインテナンス患者の平均喪失歯数】
20~35歳 36~50歳 51~65歳
~30年(257人) 0.4 0.7 1.8
  • 初診時年齢
  • 継続来院年数
  • 単位:本

出典)Axelsson et al. (2004)

【メインテナンスを成功させる秘訣】
  1. 知る
  2. 疾病を理解する
  3. プラークコントロール
  4. 楽しむ
【1. 自分のことを知る】

・口腔内撮影
まずは口腔内を様々な角度から撮影し12枚のカットに収めます。手鏡等でご自身が確認する場合はわずか2枚程の範囲しか見えません。次に染め出しを行い12枚法写真を用いてブラッシング指導を行います。このように視覚化して磨けていない箇所を確認し改善へと繋げることが重要なのです。

・エックス線写真
通常は顎全体を1枚で撮影するのですが、それだと病気の見落としや正確性に欠けますので1本1本細かく撮っています。これによりむし歯、歯周病、過去の治療のクオリティも全て把握できます。

・歯周ポケット検査
4ミリ以上が歯周病の傾向があると言われています。昔に比べて残存歯数は増えてきていますが、同時に歯周ポケットを持つ人も増えてきています。

【4mm以上の歯周ポケットの分布(%)】
2011年 2016年
35~44歳 24.3% 39.5%
65~74歳 46.5% 60.5%

出典)厚生労働省 平成28年 歯科疾患実態調査(2011~2016)

【歯肉から出血がある人の分布(%)】
2016年
30歳~ 41.7%
40歳~ 48.0%
50歳~ 40.0%

出典)厚生労働省 平成28年 歯科疾患実態調査(2016)

よくネットニュース等で話題になっている「30歳以上の8割が歯周病である」というのは、上記表の4mm以上のポケットと出血を足した数字です。


【2. 疾病を理解する】

歯周病は真面目に取り組む(歯石除去・ホームケア)と治ります。「治る=細菌を取り除きバリア機能を回復させる」ことを言います。ところが細菌を取り除いても治りづらい歯周病があります。

【歯周病悪化の可能性がある要因(リスクファクター)】
  • 不潔な口腔衛生
  • メインテナンスの欠如
  • 糖尿病
  • 内服薬
  • 肥満
  • ストレス
  • 飲酒
  • 喫煙
  • 栄養不足
  • 性別
  • 加齢
  • 遺伝

以上の要因によりメインテナンスだけでは不十分な場合があります。ここで大切なのはどの要因を見直すべきか計画を立てメインテナンスに入ることです。


【むし歯の捉え方】

歯科検診ではむし歯の進行度合いにより分類分け(C0~C4)を行います。歯からミネラル分が流出した初期症状でも単に様子を見ましょうと言うのではなく、「危ない状態のため、普段から○○に気を付けて様子を見ましょう」と細分化することが重要です。

【気を付けるポイント】
  • 環境(う蝕経験、関連全身疾患)
  • 食事(食事内容、飲食頻度)
  • 細菌(プラーク菌、ミュータンス菌)
  • 感受性(フッ化物プログラム、唾液分泌速度、唾液緩衝能)

これらの要因によりメインテナンスだけでは不十分な場合があります。ここで大切なのはどの要因を見直すべきか計画を立てメインテナンスに入ることです。


【再治療の原因】

歯は削って詰めてもケアをしなければ10年程しか持ちません。再治療の原因は治療箇所の二次う蝕であり、半数近くの47.8%を占めます。この様に治療を繰り返すと歯は死にます。歯科医院に通いながら歯は死ぬことになり、歯科医師は人生の大半を治療のやり直しに費やすことになるのです。

【正しいむし歯治療とは・・・】
計画を立てて進行を停止させること
  • 計画
    すぐに削るのではなく、むし歯の進行を止めるのはどの要因に力を入れるべきが計画する
  • 進行の停止
    むし歯の進行が停まると削る場所が少なくて済む、そして二次う蝕が減り歯の寿命が延びる

【3. プラークコントロール】

むし歯にならないために「歯ブラシをしましょう」と言いますが、日本人の ※90%以上が毎日行っています。ところが日本人の90%以上が磨き残しがあります。ただ「歯ブラシをしましょう」というのではなく、正しくは「効果的なプラークコントロールをしましょう」というのが適切です。プラークとは歯の表面に付着している細菌のかたまりです。歯ブラシだけでの除去はできませんので、あわせてフロスや歯間ブラシを使用することが効果的です。

※出典「歯科医療による健康増進効果に関する研究」第1回追跡調査報告書2016年6月 公益財団法人8020 推進財団


【4. 続ける・楽しむ】
人生100年時代に相応しいお口の健康とは・・・
  • 口臭がないこと
  • 清潔であること
  • フロスとメインテナンスは普通にやっていること
お口を健康的にしておくと・・・
  • 何でも食べられるかもしれない
  • 見た目も若々しいかもしれない
  • 病気になりにくいかもしれない
  • 歯科医療費、医療費がかからないかもしれない
  • いつまでも働けるかもしれない

【令和時代の歯科検診】

一般的な検診は、むし歯があるかないか、被せ物や詰め物等を記録するだけの無機質なものでした。そのためご自身の歯が全部で何本あるか等、基本的なことですら認識されている方は少ないのではないでしょうか?そこで、検診結果をより効果的にするために、富士通Japan株式会社 ヘルスケアソリューション開発本部と共同で開発したのが、富士通予防歯科クラウドサービスの「診査結果報告書」です。
上記の報告書は口腔内を数値化したシンプルなデータのため、誰が見ても口腔内状況を理解できます。この様なデータを日本人全員が持つことになれば、予防歯科が普及した社会になったと言ってもいいと思います。体重計が目の前にあれば乗るように、歯も同じで傍に数字があるということが凄く大事なのです。

【歯科界と一般生活者のギャップ】

予防歯科を普及させたい我々と生活者には大きなギャップがあります。一方で本日は約3000名の方々にご参加いただいていることからも、その関心の高さが伺えます。我々の予防歯科のメソッド・フィロソフィーと富士通Japan社のIT技術を融合させることで、より効果的なメインテナンスの提供に加え、さらなる予防歯科の普及ができるのではないかと考えます。その結果「KEEP28」の価値が、社会にとって意味のあるものになるのだと信じています。これこそが「デジタルトランスフォーメーション」ならぬ「デンタルトランスフォーメーション」ではないでしょうか。

【最後に】

予防歯科は今からでも間に合います。
多少むし歯があっても間に合います。
50歳からでも60歳からでも間に合います。
始めましょう、予防歯科。


令和時代の予防歯科 ~世代別のメインテナンス~

花岡佑み子 様(アップルデンタルセンター 歯科衛生士)

【担当患者の年齢分布】

現在メインテナンスの担当患者は2090名おり、昨年は1012名来院されました。その来院された方を年代別にみると、50代、60代、40代の順に多く、20代が極端に少ない傾向にあります。若い世代からの予防が大事ですので、今後これを変えていかなければならないと思っています。

【今日からできるむし歯予防】
  • フロスや歯間ブラシで歯と歯の間をケア
  • 歯ブラシは歯磨粉を2センチ程たっぷりと使用
  • 口のゆすぎは1回
  • ゆすぎを1回にする理由は、口腔内により多くのフッ素を留めておくため

【むし歯のリスク】
一般的なむし歯予防というと、以下のことをイメージするかもしれませんが、これだけでは不十分です。
  • 飲み物やお菓子などダラダラ食べない
  • 甘いものを摂るときは食事と一緒にする
  • 就寝2時間前に甘いものは口にしない

当院ではむし歯リスクを9項目に分けて検査します。それによりご自身のウィークポイントを知ることができ、これがむし歯を予防するうえで最も重要なのです。 またリスクには変えられるものと変えられないものがあります。その一つがミュータンス菌であり、この菌が多いとむし歯になるリスクが高くなります。人によりミュータンス菌の数は違うため、一言に甘いものを控えましょうと言っても意味がありません。

【年齢別のケア】
・乳歯生えたて(生後6ヶ月~)

目標:ミュータンス菌を感染させない。
1歳半から3歳までの間に両親や祖父母から感染しやすいため、親子でむし歯予防を。
保護者へ仕上げ磨き指導。本人には歯ブラシを持つ習慣から。

・乳歯完成(3歳~5歳)

目標:乳歯をむし歯にさせない
この時期の生活習慣が今後のむし歯のなりやすさを左右します。
保護者へ仕上げ磨き指導。本人磨きの練習開始。

・乳歯と永久歯が混在(5歳~12歳)

目標:永久歯をむし歯にさせない
生えたての永久歯が最もむし歯リスクが高い。保護者より本人との対話を大切にする。
仕上げ磨きに頼らず本人磨き。保護者へ仕上げ磨き指導。

・永久歯完成(12歳以降)

目標:むし歯と歯肉炎から守る
来院が途絶えやすい時期。とにかく来院してもらえるように。
成人と同じレベルで磨けるように。

・20代~75歳以上

若いうちは特に問題がないため危機感がありませんが、40代になると自覚症状がなくても病気が進行している場合があるため、定期的に歯科に通うことをおすすめします。
60代を過ぎると歯を失い栄養をとることが難しい方も多くいるため、若いうちからケアをすることが大切とお伝えしています。

【予防型の歯科治療の流れ】

初診検査後すぐにメインテナンスに移行できるわけではありません。なぜなら口の中がある程度健康でケアをしやすい環境に整える必要があるからです。

【治療のためのプロセス(初診→説明1→初期治療→評価)】

初診検査後すぐに治療に移行するわけではありません。検査後の「説明1」が重要なのです。なぜなら現状を知り、過去の治療を把握し、未来に起こりうるリスクを知ったうえで治療に入る必要があるからです。
ここでいう「初期治療」とは、口の中を知り効果的なケアの方法を取捨選択し、変化を実感する時間です。実際には染め出し後にブラッシング指導を行いますが、一般的な歯科医院と異なる点は、患者さん自身がお口の問題を自分ごととして捉えて、どのように改善すべきか自発的に行動できるよう意識を変えていただく点です。以上のプロセスを経て治療に入ることが重要なのです。

【メインテナンスのためのプロセス(再評価→説明2→SOT)】

治療とメインテナンスの間にも3つのプロセスがあります。まず治療後にどのような変化があったかを「再評価」して患者さんに「説明2」を行います。次にホームケア等が継続できていない方に対して「SOT(サポーティブオーラルセラピー)」として自己管理の支援・実践期間を設けます。これらのプロセスを経て、ようやくメインテナンスに移行できるのです。

【最後に】

衛生士の役割として「初診」から「SOT」のプロセスは患者さんのサポート・ガイド役を担っています。そして「メインテナンス」に入ると伴走者となり患者さんと協力しあってお口の健康を守ります。ここは伴走というのが大事で、どちらか一方が頑張っても「KEEP28」は達成できないのです。ぜひ皆さんと一緒に「KEEP28」を守っていきたいと思っております。


Q&A (参加者の皆さまからの質問)

Q.子どもに歯周病はうつりますか?

A.歯周病菌がどこからやってくるのかはっきりとはわかっておりませんが、家族に歯周病の方がいらっしゃれば、遺伝的な要因で子どもも歯周病になってしまう可能性はあります。

Q.歯磨きのタイミング・回数は?

A.私の場合は朝食後に軽く磨き、夕食後にフロスと歯磨きを行います。一方当院スタッフは昼食後にも磨いていますので、それくらい幅のあるものです。先程申し上げた通り。回数に関係なくプラークをコントロールすることが重要です。

Q.歯科検診にはどの位の頻度で通えばいい?

A.頻度は3ヵ月~6ヶ月と単純に当てはめるものではなく、歯周病の状態(軽度~重度)にあわせて間隔を決めます。既にメインテナンスに通われていればパートナーである衛生士に相談して決めると良いと思います。

Q.歯科検診は同じ医院に通った方がいい?

A.むし歯というものはその場で診てすぐに削るものではなく、経年変化を見て判断するものです。そのため、その時々で違う人が判断してしまうと5年後~10年後で副作用が出る恐れがあります。削るという最初の判断は慎重になるべきで、同じ人に診てもらうことを重要です。
しかしながら、同じ人が診ても効果的でない場合は客観的なデータを貰うようにしてください。もし貰えない場合は他の医院に移ることをおすすめします。

Q.歯周病の家族がいる場合、気をつけることは?

A.まずご自身が歯科医院に通い口腔内の状態を知り、どのようなリスクがあるかを知ることから始めてみましょう。

Q.良い予防歯科医院の見つけ方は?

A.予防歯科を行ううえで、子どもに教える様な手鏡を持っての歯磨き指導のみでは不十分です。そのためビジュアライズされた画面に自身の口腔内を映してもらいながら、どこが良くてどこがダメなのか、定期的に教えてもらう方が効果的です。この積み重ねがむし歯・歯周病のリスク管理に繋がり、歯科医院任せではなく患者さんの「自分ごと」化にも繋がります。この様な取り組みを実施している医院が良いと思います。また聞き慣れないと思いますが「OP歯科医院(オーラルフィジシャン)」を推奨します。
 一般的に歯の治療は大工仕事に例えられます。多くの歯科医院は図面を持たずに仕事をしていますが、お口の健康を守るうえで本当に必要なのは設計士です。そこで予防歯科で高名な熊谷崇先生(日吉歯科診療所:山形県酒田市)が2000年代初めにOP育成セミナーを創設し私達もそこに参加しました。その設計士の役割については、むし歯・歯周病の2大疾患を生涯に亘り予防を行い、治療が必要な時には最善の選択が出来る人だと思っています。いわば設計士と図面と大工と心の広いクライアントがいてこそ良い作品が生まれると考えます。そのため、このようなセミナーに一般の方が参加してくれることに大変意義があると思っています。

Q.歯ブラシとフロス以外のセルフケアは?

A.基本的なセルフケアは質問の2点ですが、その他となるとリステリン等の洗口液があります。 ただ洗口液にはフッ素が入っていないため、最後に使用すると口の中のフッ素を流してしまうことになります。そのため洗口液を使用する場合は最初に使用しすることをおすすめします。

Q.電動歯ブラシは効果がありますか?

A.結論から申し上げると、効果がある方とない方がいらっしゃいます。それはプラークの付き方に個人差があるからです。付いている場所、厚みが違うだけでケアの方法が異なります。力任せに電動歯ブラシで磨いてしまうと歯茎が下がってしまうことがあるため、かかりつけ歯科衛生士に一度確認していただければと思います。

Q.オーラルフィジシャン歯科医院の見つけ方は?

A.予防型歯科医院紹介サイト「コミュニケーション・ギア」にて紹介しております。その中でも富士通歯科クラウドサービスを利用し、ビフォー・アフターの記録を提供してくれる医院が良いと思います。データを提供することが質の担保にも繋がりますし、腕に自信がないとできないからです。

【司会】
以上でQ&Aを終了させていただきます。
畑先生・花岡様、本日はどうもありがとうございました。