高い予防成功率を誇るMTMの実践

佐藤先生が現在の診療の土台を築くまでの道について

佐藤先生が歯科医師を目指したきっかけや動機について教えてください。

小さいころに父親に歯科医師になることを勧められたのがきっかけです。
思い返すと父は歯のことでかなり苦労をしていました。
つまらない動機ですみません。

佐藤先生がオーラルフィジシャン育成セミナーを受講されたきっかけや動機についてお聞かせください。

2003年、「3歳児1人平均う蝕歯数ワースト1位」という調査で、自身が開業している地域が宮城県の中でワーストであることを知りました。その地で10年以上開業していた私には相当ショックな事実でした。解決策を調べるうちにスウェーデン(カールスタッド)や日本(酒田)で歯科として地域の健康度を上げる取り組みが成果を上げていることや、その酒田市の日吉歯科診療所・熊谷崇先生を知るようになりました。熊谷先生が主催するOPセミナーがあることは2008年に知り、すぐに応募しました。
OPセミナーは手技手法ではなく医療哲学や価値の転換に重きを置いたセミナーであり、学んだことは現在も私の診療の土台となっています。

貴院が予防歯科を実践する上で軸にしているMTM(メディカルトリートメントモデル)と一般的な予防歯科との違いについて教えてください。

MTMの実践は規格や基準を定めた体系的な取り組みです。規格写真やレントゲン写真で視覚的に長期間の口腔の変化をとらえ、数値化された検査データで患者さんの健康度を定期に測定します。一般的な予防歯科で行われているような指導ではなく、個別化された指導や経過観察が可能であることがMTMの実践の高い予防成功率に関わっているのでしょう。

歯科医療に高い質を求める患者さんの期待に応える

地域のホームドクターとしての取り組みについて

患者さんが予防歯科の重要性を理解して継続的にメインテナンスに通ってもらうため、貴院が地域のホームドクターとして行っている取り組みについて教えてください。

患者さんが治療をしないために時間と費用をかけて歯科に通う。
こうした予防歯科の継続には、医療者・患者ともに従来の歯科治療からの価値の転換が必要です。
診療中の患者さんとの会話だけでは予防歯科の必要性が伝わらないと感じ、昨年から患者セミナーを定期開催しました。現在は月2回行っています。患者さんには必ず1度は参加していただくようにしています。また、幼児施設で講話を行い予防の重要性を訴えています。

貴院がある登米市は高齢化や人口減少が進んでいますが、佐藤先生が卒業された東北大学大学院歯学研究科加齢歯科学分野での学びで現在の診療に活きていることを教えてください。また、移転後現在の地で予防型診療所を展開する苦労について教えてください。

大学での学びが高齢化と人口減少の地域の診療に活きていること
学習塾の業界では少子化にも関わらず需要が増えているそうです。特に個別指導のきめ細かい対応へのニーズが増加していると報道されています。
歯科医療も似ているのではないでしょうか?
登米市の高齢化率は27%を超えており、南三陸町はそれ以上です。人口減少も進んでいます。
そうした環境であっても歯科医療に高い質を求める患者さんはむしろ増えていると感じています。そしてMTMの実践はその要望に応える取り組みだと考えています。
東北大学在籍の頃は咬合の分野、特に顎関節症に関わっていました。当時、臨床では修復物に起因すると考えられる咬合異常を多く経験し、天然歯列の大切さを学びました。それは現在の予防の取り組みと全く矛盾しません。

移転後の苦労
医院は2011年に南三陸町から25kmほど離れた登米市に移転しました。
震災による急遽の移転でしたので開業地の選定から複雑な事務手続き、資金の問題やスタッフのことなど、それなりに多くの苦労がありました。
しかし、予防型診療所を展開する点の苦労に関しては、自身の踏ん切りだけでした。
当初ユニット2台で開業しようと熊谷先生にご相談したところ「2台ではメインテナンスができないのではないか」と諭され、心が折れていることに気付かされました。津波で多くを失った私に「ライセンスがあって良かったね」とも言ってくださり、幾通りもの意味で背中を押されました。
現在ユニット数は10台になるところです。当時のことは今も大変感謝しています。

全身疾患のある患者さんの対応について

歯周病と全身疾患は大きく関わっていますが、そのような疾患をお持ちの患者さんの治療の流れについて教えてください。

重症の高血圧症や糖尿病など、コントロールが必要な疾患については治療前に内科医とも連携するように心掛けています。
歯科に関わる全身疾患がある場合であってもMTMの治療の流れは基本的に同じです。
疾患により個別に注意する点はありますが、リスクを評価して治療介入やメインテナンスの期間を決めています。

体系的なプログラムによる教育、スタッフの自主性を高めるマネジメント

採用・教育・マネジメントについて

現在オーラルフィジシャン歯科医院では、歯科衛生士の求人に苦労する医院が少なくありません。求人・採用で工夫していることを教えてください。

求人についてはHPが一番大事だと思います。
医院HPは患者さん向けではなく、スタッフ募集のために制作しており、医院の方向性や活動を掲載して雇用のミスマッチにならないように気をつけています。採用したスタッフに尋ねると医院HPを見ないで応募した者はいませんでした。
また、採用後については3ヵ月間で達成するボリュームの教育プログラムを定めています。
これにより歯科衛生士業務の範囲や教育の進捗を明確にして、新規採用した歯科衛生士が道に迷わないように配慮しています。

予防歯科の実践にチームワークや目的意識の共有は必須ですが、教育・マネジメント面で大切にしていることを教えてください。

目の前の事柄で忙しい毎日。目的意識は、ともすると組織の中で希薄になってしまいがちです。しばしば目標を言葉にしてスタッフに伝えることは院長の仕事の一つだと思います。
マネジメントとして上手く行っている取り組みに歯科衛生士の相互チェックがあります。これは定期的に担当以外の歯科衛生士がメインテナンスをチェックするもので、見落としや漫然としたメインテナンスを避けるよう確認するものです。歯科医師の定期診査を補完する、歯科衛生士間の診査のバラつきが少なくなる、仕事を見られることでスタッフのモチベーションが上がる等の効果を実感しています。また、今年から月一回の院内勉強会を始めます。各歯科衛生士が持ち回りで講師となる勉強会です。

診療データの情報提供について

貴院は、成人の方にはクラウドサービスで、お子さんには小児ノートで診療情報を提供されていると聞いております。クラウドサービス利用に対する患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。また、小児ノートとはどのようなものか教えてください。

MTMの実践では長期間口腔の健康が保たれたことを患者さんにお知らせし続ける必要があると考えています。そこで歯科クラウドサービスは有用なツールです。
以前からOPセミナー宿題である患者さん全員分のpower pointデータを作成しています。それを抜粋したデータをクラウドサービスでお渡ししており、スタッフの負担を少なくしています。今後は内容を更に充実させたいと考えています。
データを受け取った患者さんは、指導の受け入れに熱心になる等、医院に信頼を寄せる度合いが高くなっていると感じます。また、転居や知人に伝えたい等の理由で、同じような医療サービスを受けられる歯科医院を尋ねられる頻度がとても増えました。
小児の健康ノートは、日吉歯科診療所の健康ノートを参考に医院で作成しているオリジナルのものです。もう10年近く持っていて写真で分厚くなっている方もいるので、やや大きめのバインダーで綴じています。成長の記録でもあり子供たちが胸に抱えて通院してきます。

医院組織をシステム化し、患者さんや地域住民の口腔の健康度を上げる

今後の展望・展開について

今後の展望・展開についてお聞かせください。

移転開業から6年経過します。
12名の医院スタッフのうち9名は子供がおり過去3年間に延べ7名が育児休暇を取得しています。スタッフ全員が揃うことは最近ありません。
6年の間に宮城県の最低賃金は常勤換算で1万6千円以上増加しました。
また、Web通販で材料や備品を購入することが増えました。
近年雇用する歯科衛生士の多くは就職斡旋業者を介して就業してきます。
これらは医院を取り巻く社会環境が絶えず変化していると私が肌で感じる例です。
これからも予想内の、そして予想もしない変化が続くのでしょう。

変化を続ける社会環境の中でも医院の目標は歯科医療を通して患者さんの、そして地域住民の口腔の健康度を上げることです。これは多くのMTMを実践する歯科医院と変わらないと考えます。

その実現のために現在行っていることは、医院組織のシステム作りです。
歯科医院のスタッフは1人で何役もの仕事をすることが多いのですが、なるべく1つに絞ること。それぞれのスタッフがほかのスタッフのバックアップの役割を持つこと。
アウトソーシングできることはなるべく外部に依頼すること。ITにできることはITに任せること。それぞれの仕事において上手く行ったことの基準を明確にすること。
システムを作って行くと新規採用スタッフは短期間で成果を上げるようになり、院内の清掃や機械室の定期点検をアウトソーシングして各個人の仕事の範囲が明確になりました。
スタッフが主導して改善に取り組む事柄が増えました。
歯科矯正医や口腔外科医など専門医に依頼する、または内科医や整形外科医と連携する頻度が以前の数倍になりました。
システムにまだ改善の余地は多いですが、変化を続ける環境に対応しながら愚直に患者さん・地域住民の口腔の健康度の向上を求めたいと考えています。

佐藤先生による自己評価(5点満点)