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江間誠二先生:江間ファミリー歯科・矯正歯科

地味で大変な反復努力が、全国に予防の価値を普及させる

真の予防歯科との出会い

歯科医師を目指そうと思われた動機・きっかけについて教えて下さい。

 親の勧めに加え、私が大学受験をする時期には既に兄が歯科医師になっており、自然と同じ道を目指していました。

開業当初はどのような臨床スタイルで、どのような歯科医療を目標とされていましたか。

 一般歯科治療と矯正治療を並立させ、できるだけ自由診療を多くするように心がけていました。そのため当時は予防歯科のことは全く考えていませんでした。
 開業にあたっては、卒業後すぐに真鍋滿太先生の研修を受けた時、「新聞の折り込みチラシや広告はするな、患者様の口コミで患者さんを増やしていきなさい」と教わったため、名刺大の患者カードを作成し患者管理を行うようにしていました。また、生涯勉強「Continue Education」ということを強く言われていましたので、自分の苦手とする分野、新しい考え方や、技術の研修を最低でも1年に一度は受けるようにしていました。

江間先生はオーラルフィジシャン育成セミナー(2005年8期)を早い時期に受講されておりますが、きっかけは何だったのでしょうか。(2021年6月現在 70期)

 2000年頃より、業界新聞や雑誌で「予防歯科」というものを目にするようになり、2、3の研修を受けましたが、残念ながらピンとくるものはありませんでした。その後、日本ヘルスケア歯科研究会に参加した時、初めて熊谷崇先生の講演を聞き、もの凄い感銘を受けました。すぐにでも先生の研修を受けたいと思い、オーラルフィジシャン育成セミナーを申し込んだのです。

「予防習慣」を「家族習慣」にすることが重要

親子予防の実践と工夫について

1981年から現在に至るまで小学校の歯科校医を務めていらっしゃいますが、当時と現在とでは口腔内状況にどのような変化がございますか。

 私が担当しているのは中山間部地域にある小学校で、自身や子供たちも卒業生で、3世代が同居している家庭が多くあります。学校医就任当初は、全生徒のうちカリエスフリーの子供は300人中2,3人程度でした。現在はコロナ前データですが、47%がカリエスフリーになっています。すなわち約半数の子がカリエスフリーということになります。地道に保健集会や子供向けの虫歯予防教室を実施してきましたが、まだまだ足りないところがあります。全国平均が60%位ですから、この数値に近づくように今後、努力していきます。

貴院は分院の「キッズ・エマ・デンタル」で予防管理型の小児歯科にも注力されています。そこで実施されている「子供専用プログラム」の特徴やその効果について教えて下さい。

 初診で来院されるのは、前歯が萌出して間もない子が殆どです。あとは他の医院からの紹介、歯が痛いなどの直接来院です。まずは両親へ虫歯予防への理解を深めていただくために、「むし歯予防教室」セミナーを受けていただき、だ液中のミュータンス菌の検査のみを行い、クリーニングの期間を決めていきます。通常お母様方は子供の医療費は無料だと思っているため、料金プランや予防には保険診療が適用されない旨を説明し、同意書にサインをいただくようにしています。
 また、強制治療は行わないようにし、子供に歯科医院に来ることが楽しくなるよう、「歯みがきサポート」というプログラムを実施しています。その対象は0-3歳で、歯に関する本の読み聞かせ、手遊び、人形劇等を行っています。待合室ではできるだけスマホを使わないよう、自然と親子のコミュニケーションが取れるような環境づくりを心がけています。しかし、コロナの感染拡大を受け、待合室の絵本を撤去しました。その代わりに待合室のイベントとして、当院のオリジナルキャラクターの名前を考えていただいたり、壁の掲示物を充実させたりという取り組みを行っています。

親子での予防管理がもたらす効果やメリット、親子で通いやすい医院の環境づくり等貴院の取組について教えて下さい。

 家庭内での予防の知識が同一であれば、子供も納得しやすいです。子供は親や祖父母などの背中を見て成長していきますので、家族全員で予防を行うことで、自然と子供も受け入れてくれると考えています。そのため「予防習慣」を「家族習慣」にすることが、親子予防では重要なのです。
 環境づくりでは、通院が親子共々ストレスにならないように心がけています。まずはお母様やお父様が通いやすいような託児サービスはもちろんのこと、兄弟が多く一人一人の受診に集中できないという声にお応えし、託児サービスを兄弟受診の際にも拡大しました。
 子供については、児童精神科医の娘の意見を取り入れて、「褒める」を徹底して行っています。担当した衛生士だけではなく、待合室でもスタッフが褒める、帰りに受付でも褒める。次回の通院を考慮し、自信を持って帰っていただくことで、お母様、お父様、お子様自身の通院によるストレスを楽しみに変えるように心がけています。

親子予防によって小学生の時はカリエスフリーを達成した子供が中高生になると受診率が下がり、むし歯ができてしまうという問題が少なからずあります。貴院ではどのような対策をとられていますか?

 10歳近くになると、仕上げ磨きを卒業するための課題を設けて、それをクリアすることで口腔ケアの自立を図ります。課題をクリアしましたら、お子様本人に「これから一生頑張りましょう」という趣旨の表彰を行なっています。お母様、お父様には「今まで仕上げ磨きお疲れ様でした」という趣旨の感謝状をお渡ししています。これにより口腔ケアについて、自立と自覚を持って中学生になってもらう準備を行っています。以上のことからも、魔の10代のカリエス発生を減らせればと思っているのですが、取り組みを始めてまだ日が浅いため、効果はまだわかりません。その他には、家族来院をしっかり把握し、子供の来院間隔が空いているようだと家族に声をかけるようにしています。
 今後の取り組みとしましては、地域のスポーツ指導者に対して、スポーツ外傷予防のためのマウスガードの普及活動に加え、むし歯予防のための歯科受診を推奨していただけるようなセミナーを開催し、スポーツ活動を理由に歯科受診ができないという考えをなくしていきたいと思っています。

成人部(本院)と小児部(分院)の部署間の連携はどのように図られているのでしょうか。

 基本的なところですと、毎日朝礼を合同で行い、アポイント、連絡事項、報告事項について情報共有をしています。月に一度、全員参加のミーティングと各部署の代表者のリーダー会議などで連携を図っています。また、相互間の活動を評価するための内部監査も1年に1回実施しています。
 患者さん一人一人については、サブカルテや過去のだ液検査のデータ、口腔ケアのデータを渡し、担当へ引き継ぎを行うようにしています。現在、キッズエマデンタルでは、健康ファイルのクラウドサービスを行なっていないのですが、今後クラウドサービスを引き継ぐことによって、コミュニケーションの記録ごと引き継げるような仕組みを作っていきたいと考えています。

労を惜しまず、地域全体の予防力を向上させる

多種多様なセミナー活動について

貴院は患者教育にも力を入れていらっしゃいます。中でも定期的に開催されている院内・訪問セミナーの種類には目を見張るものがあります。 (むし歯予防教室、妊婦さん教室、歯を失わない教室:ホームケア―セミナー、歯並び教室、産婦人科セミナー、企業セミナー)
これだけの種類を定期的に開催できる秘訣やその効果、企業セミナーの実績についても教えていただけますでしょうか。

 チェアサイドで説明しきれないものなどの補完として、院内セミナーを実施しています。セミナーの内容はアンケートをもとに、約2年に1回程度の見直しを実施しています。
 ご指摘いただいた通り、当院では出張セミナーや地域のイベントへの参加に力を入れています。出張セミナーは自院誘導の広告活動や自院のブランディングではなく、地域全体の予防力向上のための啓蒙活動と位置付けています。出張セミナーで1番実績があるのが「妊婦さん教室」で、これは産婦人科での母親学級で開催させてもらっています。
 次に開催実績があるのは「むし歯予防教室」とその短縮バージョンの「はじめての歯ブラシ教室」です。これはお子様を持つお母様、お父様向けの内容で、子育て支援センターや園医になっている保育園の関係施設、子育てイベントやママ友サークルなどに出張しています。
 これらのセミナーに比べると、企業向けのセミナー実績はかなり少なくなってしまいますが、企業だけではなく商工会議所のモーニングセミナーや、地域の敬老会で実施実績があります。ただこのコロナ禍では、なかなか参加するイベントなども少なくなっていているため、妊婦さんセミナーは動画で行ったり、むし歯予防については、地元のラジオで7分程度のコーナーで月一回話しをさせてもらい、啓蒙活動を途切れさせないように心がけています。
 開催についてはコツとかそういうものはなく、地元のフリーペーパーへの案内、患者さんへの声かけ、イベントへの参加を繰り返し行っているだけです。ただ認知度が上がるまでは参加者もなかなか集まらないものもありました。興味を持ってもらうため、タイトルや内容をこまめに変更し、内容を充実させていったことが今につながっているのかもしれません。

クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することについて、患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えて下さい。

 患者さんの反応は上々です。転院の際にも資料の受け渡しなどなくスムーズに進めることができますので、こちらとしても助かる部分はあります。また日吉歯科診療所から転院してくださった患者さんも、クラウドのおかげで状態をスムーズに把握することができました。この点は効果を強く実感しています。
 ただクラウドサービスを開始するにあたりまして、色々なことを試みましたが、正直衛生士の仕事量が上昇したことにより、かなり不満が溜まりうまくいきませんでした。そのため勧める対象と内容を絞ることで再スタートを切りました。現在は自費メインテナンスの付加価値のサービスとして運用を進めています。内容に関しては、印刷しているものと同じものをクラウドにアップロードしているだけとなっています。
 ただコロナに直面し、患者さんとのコミュニケーションを取ることの重要性を痛感しました。今後はクラウドを利用し、より密な情報発信を行っていこうと考えており、現在運用方法の見直しに取り掛かっています。来院を飽きさせない楽しみになるようなコンテンツの提供を目指していきたいと思います。

年齢にとらわれるず、新しい歯科医師の生き方を次世代に示す

今後の展望・展開について

甲府市にとって貴院の存在意義はとても大きいですが、予防歯科を日本全国に普及させるためには、今後どのような取り組みが必要となるかアドバイスをいただけますしょうか?

 熊谷崇先生のような、全国的な発信力がある人がたくさんいて、次から次へと発信することで普及していくと思うのですが、なかなかいらっしゃらないのが現実だと思います。第2第3の熊谷崇先生を探すのではなく、OPの先生たちが地道に市区町村単位で草の根運動をし続け、行政にも働きかけ続けることが重要だと思います。大きな運動で一気に普及させるよりも時間はかかるかもしれませんが、一歩ずつ地味で大変な反復努力を続けていくことが、地域や全国の予防の価値の普及につながっていくと感じています。
 また全国への発信となると全世代の発信がとても重要と考えています。今はSNSが注目を浴びていますが、テレビやラジオや紙媒体などのメディアもしっかり活用し、どの世代へも穴の無い啓蒙活動が必要だと実感しています。
 若い先生も私と同世代の年寄りの先生も、めんどうくさいと言わずに診療室から出て、地域で啓蒙活動してもらえればと思います。

最後に貴院の今後の展望・展開につて教えて下さい。

 医院としては、来年度に本院と小児の分院を統合し、新しい医院を建設中ですので、それに向けて準備をしています。目的としては、切れ目のない小児から成人への移行と強化、デジタル化へ向けての設備の強化、スタッフの勤務環境の改善、更に一般向けのセミナーの充実化を考えています。特に口腔機能系に関連する充実化や、離乳食教室の開催も考えています。
 医科との連携では、歯周病や顎関節症の原因と言われながら、「趣味を持ってください」「スポーツをしてみては?」などと逃げている「ストレス」について向き合い、より踏み込んだ指導をできないか、精神科医とともに模索していきたいと思っています。更には在宅療養を行っている患者様に対して、訪問診療は今まで治療がメインになりがちでしたので、この辺りも今後取り組むべき課題として捉えています。
 私自身は70を超え、衰えを感じることが多くなりました。ただ、まだ身体も頭も動くので、社会を支える側の人間として仕事を続けたいと思っています。デジタル化などの社会環境の変化についても、共に働く息子夫婦に支えてもらいながら挑戦を続けていきたいと思っています。そして自分自身がメインテナンスを続け、健康を維持し、健康寿命を伸ばし、来院してくださる患者さんの目標となり、地域のいきいき老人の象徴となれるように頑張りたいと思います。
 こんなところに70過ぎの年寄りが出しゃばりすぎかと思われる方もいらっしゃると思います。私は同世代や自分より年下の先生方が引退されるのをみていると、まだ働けるのにもったいないと思います。私自身はこの年齢、今だからこそできることを模索しながらチャレンジを続け、人生100年時代の中で、70超えての新しい歯科医師の生き方を次世代に示していけたら良いと思っています。

先生による自己評価(5点満点)