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畑慎太郎先生:アップルデンタルセンター

畑先生にとってプロを感じさせる歯科医師とは

プロ野球選手が野球を好きなように、歯科医療に情熱がない歯科医師はプロとは言えません。技術の巧拙以前に、歯科医師はその第一歩が違っている人が多いようですが、この点をどのように考えていますか?また、畑先生にとりましてプロを感じさせる歯科医師とはどのような歯科医師でしょうか?

私がプロフェッショナルを感じる歯科医師は、この仕事を生活の手段に留めることなく、歯科を取り巻く社会的に未解決な課題に立ち向かい、新たな価値を作り出すことができる人ですね。
そう言うとカッコいいのですが、挑戦の過程で数多の失敗と挫折を糧にして、粘り強く努力を続けられる人。腹を括り、自分と闘っているような生き方をしている歯科医師です。
私も技術や社会的地位に胡坐をかかずに、プロフェッショナルな歯科医師として魅力的な人生を送りたいと思っています。

現状維持でやり過ごそうとする歯科界の10年後について

歯科界は、現状改革を避けて、現状維持でやり過ごそうとする歯科医師が大勢を占めています。このような歯科界の10年後はどのようになっているでしょうか?

「歯科界の10年後」は質の高い診療技術はもちろんのこと、質の高い診療記録や情報を残し地域社会に発信していくことが重要な時代になると考えています。

歯科医師も患者さんも10年後や20年後を考えるよりは今困っている歯にフォーカスすることが一番大切なように錯覚してしまうのです。結果として「歯科医師は親切で手先が器用で、治療は早く安く痛みなく行う」という薄利多売の文化が醸成されたと思います。この文化が現在も根強く残っているのが歯科界です。

いわば歯科という診療科目は歯科医師による直接的な関与(削って詰めてという治療行為)より間接的な関与(治療が必要になる前に行動を変える)が非常に有効であると言えます。
きっかけは様々でしょうが歯科医院を訪れた患者さん自身が正しい知識を持ち帰ってもらうことが大切です。
残念ながら高齢者の方で何本も歯を失っている方なら自分の苦労したことを子どもや孫に、主婦の方なら働き盛りのご主人や子どもに、学校の先生なら生徒に、企業のトップの方なら企業内で歯科医療の価値を伝える伝道師になっていただくことが最も効率的な予防策だと思います。

それはクラウドサービスによる診療情報の共有のことでしょうか?

それも一つですね。
「文字より画像情報で見る方がわかりやすい」という声もいただいている一方で、まだあまり興味を示されていない患者さんもいらっしゃいます。
今後の継続的な取り組みが重要になってくるでしょう。

*画像クリックすると拡大表示されます。

クラウドサービスで、患者さんはご自分のスマートフォンやPCなどで診療情報を見ることができます。

開業当初、どのような臨床スタイルで、どのような歯科医療を目標としていたか

現在、歯科界は氷河期といわれ、とりわけ東京など都市部で開業するリスクは高いと言われています。東京郊外の現在の地で開業した当初、どのような臨床スタイルで、どのような歯科医療を目標としていたのでしょうか?

開業当初は、むし歯は病気だということを、あまり深く考えていませんでした。「痛くなく親切に丁寧に治療を行う」というのが私の歯科医療に対する価値観でした。

従来型の歯科医師だった畑先生が、予防型歯科医院を志した理由を教えてください。

一日の歯科診療のほとんどが歯の再治療(かつて治療して治っているはず)に割かれていることに気づいたのです。
つまり、むし歯というものは金属やプラスティックに置き換えても根本的な解決策になっていないのです。その結果むし歯の病因論を強く意識するようになり、治療の順序を考え、初診時の検査・初期治療を重視するようになりました。(いきなり削ることをやめた)これがいわゆる予防と呼ばれるものかもしれません。
結果として適切な手順を診療にきちんと組み込むと修復的な治療の精度も向上します。それは歯に対する価値観の高い患者さんは治療を自分のこととして捉え、格段に清潔な口腔内で診療できるからだと思います。

予防型歯科医院に転じて軌道に乗せるまで

予防歯科は患者さんを生涯顧客化する経営スタイルです。夜間人口比率が高く住民の定着率の高い地方の市町村が、予防型歯科医院の経済原則には合っています。なんとなくの予防歯科からメディカルトリートメントモデルを範とする予防型歯科医院に転じて軌道に乗せるまで、何年かかりますか?また、予防型歯科医院を軌道に乗せる条件と言えるものがあれば教えてください。

予防型歯科医院の経営を軌道に乗せることは何年経っても厳しいというのが本音です。
予防型歯科医院の実践において、スタッフ教育が非常に重要です。歯科医師だけでなく歯科衛生士・助手、歯科技工士・受付が医院の診療理念を根本から理解しなければならず、これに約3年はかかったと思います。
私たちを信じてついて来ていただける患者さん方に最大限のサービスを提供しなければなりません。そのサービスとは歯科治療そのものはもちろんのこと、正確な医療情報を提供することであり、清潔でプライバシーが保たれた診療空間を提供することだと思います。患者さんからの信頼を得るための投資を惜しまないことが重要です。

依然、治療主体の傾向がある歯科界について

「歯がしっかりしているほど元気な老人が多い」といわれ、予防型歯科医院の価値は医療全般の中では、高く評価されるようになってきました。しかし、当の歯科界の中では、依然、治療主体の傾向があります。その理由は、保険制度にあるのでしょうか?大学教育にあるのでしょうか?歯科医師になる動機にあるのでしょうか?その他の理由も含めて教えてください。

歯科大学では、治療のトレーニングはあまりなく、一般教養や基礎系の講義や国家試験に合格するための勉強が大部分を占めます。
週に2~3回、模型を作って入れ歯やクラウンなどの歯科技工を、最後の一年間で患者さんへの実践的な治療を少し行う程度です。
そういった意味では卒業したばかりの歯科医師や歯科衛生士は診療技術の一部だけを切り取ったものを身に付けてはいますが、長い目で患者さんを見ていくという経験をしていません。
それどころか長い目で見ていくことの大切さすら教わっていないのです。昭和30年代くらいのむし歯の洪水と言われた時代の学生教育が今も続いているのかもしれません。

保険制度についてはどのように考えていますか?

とりあえず痛いところだけ治してくれればよい、悪いところだけの治療こそ歯の治療だと思っている方にとって保険制度は非常に便利です。
一本の歯に小さい穴が開いていたらそれでいいのかもしれませんが、普通穴は開きません。また歯周病のように症状がほとんど出ない病気の場合、気づいたときは手遅れだったりします。
時に歯周病の治療において抜歯は賢明な治療方法なのです。ところが予防歯科=歯を抜かない歯医者と思い込んでいると歯を抜きたくない患者さんに対し、治っていなくても歯を残して治ったかのように取り繕う歯科医療が許されるのも保険制度の悪いところかもしれません。
誤解して欲しくないのは、保険制度が悪いのではなく、歯科医師側のモラルの問題かもしれません。患者さんの状態を正確に診断し、エビデンスを提示して治療方法を患者さんが選択できるよう手助けして治療を開始することが大切です。

専門医、他科との連携の実践について

専門医による治療の意義について1つの疾患を『点』で捉えるのではなく『面』として捉え、歯科の専門医、他の医療機関との連携を図ることが予防型歯科医院のあるべき姿と考えています。畑先生の医院では専門医、他科との連携をどのように考え、実践していますか?

私自身、2007年頃から、インプラント・補綴・根管治療・矯正歯科治療・小児歯科の専門医の先生を集め、一人ひとりに当院の診療理念を伝えて理解してもらいました。

例えば、むし歯治療では、初期のむし歯のコントロールは歯科衛生士と患者さんが主役です。それを削ったり、詰めたりするのは私のような歯科医師の仕事です。
深いむし歯になり神経の治療が必要になった場合は、根管治療の専門医が治療します。抜歯になりそうな深いむし歯の場合、歯を温存する治療が妥当で患者さんが望まれた場合の特殊な処置も私が行います。
抜歯後にインプラントを希望された場合は、インプラントの専門医が治療します。
とりわけ重要なのは小児の治療です。どうしても小児歯科、矯正歯科という垣根があるのが歯科業界です。それを良いタイミングでの矯正歯科治療ができるよう小児専任の歯科医師と診療理念を共にしている矯正歯科医が連携して担当しています。

全身疾患を抱えている患者さんの治療についてはどのような対応をしているのでしょうか?

歯周病は全身疾患と大きく関わっており、全身疾患を抱えていらっしゃる患者さんの治療において医科との相互連携は必須です。現在は連携といっても文書でのやりとりくらいなのが現実でまだまだ不十分です。
病気を本格的に発症させる前に歯科受診するような文化ができればと思います。そのためには医師や看護師にも歯科医療の価値を知ってもらい地域の内科など一般医科との質の高い連携ができるよう勉強会などができればいいと思います。

例えばある病気になり全身麻酔で手術をするとなると、術前に口腔ケアが必要かチェックされます。

  • 口腔の状態が不潔
  • ぐらつく歯がある
  • 入れ歯が入っている

気道に挿管する際にこういった状態は非常に厄介なことになります。入れ歯を持っている患者さんは当然歯科医院にかかっているわけです。一般医科から見て不思議に思うんじゃないでしょうか?歯科医院は何をやっているんだと。
ですから入れ歯やかぶせものを正確に作るのも大事ですがもっと歯や口の中を一つの臓器として考えるべきなんです。手術の時になって急に口腔ケアをするより、あらかじめ定期的なメインテナンスできれいにしておいた方が、スムーズに手術ができるわけです。もっと言えば全身疾患の発症リスクを抑えられると言われていますから歯も残るし無駄に病気にならなくて済む、時間もお金も抑えられるわけです。

スタッフの採用基準・方法について

さきほど「予防型歯科医院の実践において、スタッフ教育が非常に重要」とお話ししていましたが、スタッフの採用基準・方法について教えてください。

特別な求人媒体は用いておらず、口コミや紹介等で医院の方向性に賛同してくださる方を募集・採用しています。

そうして採用したスタッフの教育方法を教えてください。

当院では、歯科医師は手先の技術を歯科衛生士は歯磨き指導のやり方をといった旧態依然の価値にとらわれ過ぎず、まずは医院の哲学や歴史を教えています。
歯科医師や歯科衛生士は患者さんに正しい情報を提供する能力が重要になってきており、そのためには病因論をきちんと説明できなければなりません。それはマニアックな知識を知っているオタク的なものではなく、歯科医療の大枠を知っていることなのです。
なぜこんな検査をするのか?なぜこんな診療プロセスなのか?患者さん一人ひとりに合わせたプログラムをたてるわけですから、歯だけでなく患者さんの背景をみることが要求されます。同時に患者さん自身が自分のことと捉え正直に話してくれるように信頼されることが大切です。ですから歯科医師、歯科衛生士というより社会人としてきちっとしているかどうかが大事なのです。
またスタッフ自身が何かわからないことがあった時も安易に答えを教えず、どこで調べれば解決するのか?を教えるようにしています。普段の悩みを「答えを出せるような疑問文に変換すること」が勉強の第一歩です。
このように、「勉強の仕方を勉強する」勉強会を、志を一つとする3医院合同で定期的に行っています。

今後の展望・展開について

最後に貴院の今後の展望・展開について教えてください。

人生60年時代は従来型の悪くなったところを補てんするための歯科医療で良かったかもしれません。人生80年どころか100年時代と言われていますから早く歯をダメにしてしまうと後でつじつまが合わなくなってくるわけです。
このように健康を守りたいという希望をもっている患者さんに基準を合わせた診療所を作っていくことを考えています。いわば量から質への転換です。予防といってもむし歯や歯周病を永久に守れるものではありません。患者さん一人ひとりには個別のリスクが潜んでいます。そのことを患者さんやその家族に周知できる歯科医院には健康観の高い患者さんが定着してくれると思います。結果として地域の口腔内の健康に寄与できるのです。

歯科医療の新たな価値とは…

「単なる修理屋ではなく、歯科医療を通して今の日本の課題である超高齢化社会に向けて、
持続可能な世界一の安全・安心社会の実現に貢献できるもの」

そんな風に考えています。

畑先生によるSelf-rating sheet(5点満点)