患者さんの健康観を高める予防歯科

柴田先生が理想の歯科医療象を見つけるまでの道について

柴田先生が歯科医師を目指したきっかけや動機について教えてください。

実家の近所に母の叔父が歯科医院を開業しておりました。幼い頃から可愛がっていただき、よく診療所を併設した自宅にも出入りしていました。このことが職業を選択する上で少なからず影響を与えたと思います。

2006年に柴田先生がオーラルフィジシャン育成セミナーを受講されたきっかけや動機についてお聞かせください。

私は歯科医師になってからずっと「理想の歯科医療は、どうあるべきか」を追い求めてきたように思います。開業してからも臨床で生じた疑問や問題を解決するため研修会や勉強会に参加し、そこで得たことを自院の臨床に反映させてきました。しかし、いつもどこか満たされないものを感じていました。そのような中、メインテナンス・ルネッサンスと題する熊谷先生の講演会の案内が目にとまり参加しました。先生のお話は、まるで直接自分に話しかけられているように感じ、お聞きするにつれ満たされないものの答えが見えてきたように感じました。それがきっかけとなり、オーラルフィジシャン育成セミナーを受講しました。

その後、貴院が予防歯科を実践する上で軸にしているMTM(メディカルトリートメントモデル)と一般的な予防歯科との違いについて教えてください。

当院は、MTM導入前も予防的な取り組みをしていました。そのような中でメインテナンスの重要性も伝えてきましたが、メインテナンスのために来院する患者さんは、ほんの一部に過ぎませんでした。しかし、MTMを導入した現在は、その状況は劇的に変化し、多くの方に来院していただけるようになりました。以前の当院は、一般的な予防歯科の医院に当たるのではないかと思いますので、現在の自院と比較しながら述べさせていただき今回のご質問の答えにさせていただきたいと思います。

まず、OPセミナーに参加したことで、自院が目指し提供すべき歯科医療像が明確になりました。さらにそれをスタッフと共有できたことが、違いを生むうえで最も重要なことだったと思います。以前は、歯科医療像は明確とはいえず、予防の位置づけも曖昧でした。MTMは医院が目指す歯科医療像を具現化するための有用な手段であると考えています。患者さんはMTMで診療を受けることで、自分の口腔内の現状に加え、リスク評価により未来の姿も知ることができます。一般的な情報に加え、患者さん自身の詳細な情報を加えた教育が、アクセルソン先生の述べられた自己診断につながり、そのことが行動変容を促し、さらには健康観を高めることにつながっているのではないかと考えています。個室などの医院環境、そして担当制を含めた医院のしくみ等もそれを後押しする上で重要なファクターであると思います。これらのことは、以前の当院では十分ではありませんでした。

親子での予防管理が家族の健康に繋がる

親子での予防歯科の実践について

「the Quintessence」2017年3月号にて、柴田先生は様々な診療データとともに「親子予防のススメ」という記事を執筆されました。現在、貴院の小児部には母親専任の歯科衛生士がいるほど親子予防に力を入れていらっしゃいますが、本格的に親子予防に取り組み始めた理由、母子ともに行うリスク検査や母親への説明の内容と効果、親子で通いやすい医院の環境づくり、親子予防から始まる家族単位での健康獲得などについて教えてください。

OP診療室として、患者さんに生涯自分の歯で幸福な人生を過ごしていただくことを理念に意気揚々としてスタートした頃、35歳の女性が来院されました。ほとんどの歯が失活歯で修復処置され、しかも二次カリエスを発症し保存不可能な状態でした。この方のように手遅れ状態の患者さんに接する度にやるせない気持ちになるとともに早期からの予防の必要性を感じ、小児部を立ち上げ、小児棟も建設しました。さらに診療を行う中でデータからも母親が一緒に予防管理を受けている子供の口腔内の状態がいいこともわかり、親子での予防をすすめるようになりました。母親も子供のリスク因子の一つとしてとらえ、来院する子供の母親全員に口腔内診査、サリバテスト、口腔内規格写真の撮影を行うようになりました。このことにより、ほとんどの母親が親子で予防管理を受けるようになりました。本人の口腔内情報と子供の情報を関連づけながら啓発したことが、母親の受診率のアップにつながっていると思います。効果としては、アンケートからみえてきたことですが、母親の歯科医療に対する考え方に変化がみられ、子供を健康にしたいという気持ちも強くなっています。また、家族内の会話では、歯のことを話題することが多くなり、家族単位での健康獲得にもつながっているケースも認められます。来院しやすい環境として保育士による子預かりも行ってきました。

貴院の歯科衛生士さんは治療部、成人メインテナンス部、小児部に分かれて仕事をされており、小児部には子ども専任、母親専任の歯科衛生士さんがいらっしゃいます。部署間の連携はどのように取られているのでしょうか。

サブカルテによる患者情報の共有がベースになっています。これを読むことで詳細に患者情報が得られます。また、毎朝診療の打ち合わせをしていますが、ここでの情報交換も連携をスムーズにすることにつながっていると思います。そして、スタッフは昼休みにも食事をしながらお互いに情報交換をしているようです。連携する上で発生した問題や改善すべき点があれば部署単位や全体でのミーティングを開催し解決しています。

親子予防によって小学生の時はカリエスフリーを達成した子どもが、中高生になると受診率が下がり、むし歯ができてしまうという問題が少なからずありますが、貴院ではどのような対策を取られていますか?

当院では小学校卒業時にカリエスフリーを達成した患者さんを表彰しています。この際、引き続き定期管理を受けることの重要性を伝えるセミナーを開催しています。まだ、データ化できる段階ではありませんが、担当歯科衛生士からの報告を聞く限りは、それなりの効果もあるようです。いずれデータ化して報告する機会があればと思っております。

また、当院独自の対策ではありませんが、現在私は郡市歯科医師会の会長を務めており、一医院としては実現しにくい点を会として市や町に働きかけ、また啓発のために歯科医師会主催の講演会に行政や多職種の方に参加してもらうなどの取り組みを推進しています。そのような中で、中高生がクラブ活動等で歯科受診しにくい現状を訴え、改善を求めています。

診療データの情報提供について

クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することに対しての患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。

まだクラウドサービスを始めて間もないのですが、親子予防の母親たちに興味をもってもらっており、好評です。「紙媒体のファイルはあまりみなかったが、スマホは常に手元にあり時間がある時に子供のファイルを見ている」「画像は拡大できるので、紙のファイルよりもみやすい」などの声があります。導入も中高年に比べハードルが低いように思います。導入期の現時点では、小児の母親を中心にクラウドの輪を広げていこうと考えています。一方スタッフは、サービスを提供するまでの設定や準備、患者さんへの説明、ファイルのアップロードなどに時間がかかるなど大変さはあるが、提供できるものは大きいと感じているようです。いずれにしても自分や子供の歯の情報が手元にあり、いつでも手軽に見ることができることは、患者教育や地域への啓発の面で効果があると感じています。この大きな可能性を秘めたクラウドサービスを今後も活用していきたいと考えています。

正しい知識と医院理念に基づいた、チーム医療の提供

専門的な治療での連携について

貴院ではインプラントや矯正歯科の専門医による治療も提供されていますが、どのように連携されているのでしょうか?その際、指揮を執るのは柴田先生でしょうか?

現在常勤の歯科医師が私を含め3名の他に矯正専門医2名、補綴・インプラント科から2名が定期的に非常勤として勤務しています。これら勤務医に対しても医院の理念や臨床における考え方について機会をみつけては伝えるようにしています。

治療に際しては、私自身がインプラント学会の専門医ですので、基本的にインプラント治療は私が行っています。ただ大掛かりな骨造成等のケースでは大学からきている非常勤の専門医の先生とも連携しています。歯列・咬合に問題があるケースは矯正専門医と連携しています。連携するケースは、いずれの場合もゴールを共有しながら私が主導して進めています。

一方小児ですが、定期管理する中で歯列・咬合に問題があるケースは、小児部と矯正専門医が連携して進めています。この際、副院長である家内がマネジメントしています。

医院マネジメントについて

予防歯科の実践にチームワークや目的意識の共有は必須ですが、採用・教育・マネジメント面で大切にされていることを教えてください。

最も大切にし、意識してきたことは、OP診療所としてやりがいのある理念や目標を掲げ、あらゆる場面を通して繰り返しこれらのことをスタッフに浸透させることでした。
前にも述べましたように部署ごとや全体でのミーティングなどは定期的に開催しています。
そのような中で、新人教育プログラムの構築、症例検討会そして外来講師を招いての院内セミナーの開催や研修会への参加など教育の機会もつくってきましたが、これらもスタッフの中に理念が浸透し、自分の仕事にやりがいを感じる中で活きてくることだと思います。DHの確保もなかなか難しいのが現状ですが、最近は採用の際に当院の診療を見学してもらい勤務に至っています。現在DHは12名が勤務し、来春1名が加わる予定です。こういった結果が得られているのも様々な要因があると思いますが、理念が医院全体に浸透し、見学者にも伝わった結果ではないかと考えています。また、スタッフ間でコミュニケーションがうまくはかれるようにも心がけています。スタッフルームは休息の場ですが、スタッフの情報交換や親睦の場でもあります。昨年手狭になったこともあり、スタッフルーム兼セミナー室を増築しました。このようなスタッフに対する環境づくりも院長の役割の一つだと考えています。

時代に合わせた形で予防の輪を広げる

今後の展望・展開について

今後、貴院がある羽後町では町外への流出の増加による人口減少や少子高齢化の加速が予想されますが、それに合わせた医院の在り方や継承についてはどのようにお考えでしょうか。

OP診療所としてスタートしてからほぼ10年になります。当町の人口は減少の一途をたどっていますが、最近の傾向として患者さんの来院するエリアが広がっています。周囲の市町村からも予防ベースの診療を求めて来院していただいています。引き続き広いエリアからでも来院いただけるよう魅力ある医院づくりを進めていきたいと思います。

一方で、患者さんの高齢化が進み通院が困難な患者さんも増えてくることが予想されます。生涯自分の歯で健康に過ごしていただくことが目標ですから、今後は訪問してのメインテナンスも検討していく必要があると考えています。また、継承は患者さん、そしてスタッフに対しても真剣に考えていかなければならないテーマです。現在一緒に診療をしている娘が継承してくれればと考えていますが、今後の課題です。

柴田先生による自己評価(5点満点)