真の患者利益を追求する予防歯科

早乙女先生が歩んだ道、深めてきた学びについて

早乙女先生は日本歯科大学大学院で口腔外科を専攻されていましたが、そこでの学びで現在の診療に活きていることを教えてください。

私は大学院を含めて9年間母校の口腔外科学教室に在籍していました。
私の大学の口腔外科は顎変形症や外傷、歯科小手術が主な治療対象であり、歯と関係のある外科処置の基本を学びました。すでに30年も昔のこととなってしまいましたが、治療に介入しなければならない患者さんの場合、外科処置は多くの場面で対応しなければならず、口腔外科での研修は大変役に立っております。現在では特に歯周外科やインプラント治療等、歯を守るための外科処置への対応に活かせているのではないかと思っています。
医療行為、特に外科処置は人を傷つけて行うことで成り立っており歯科医師としての倫理観、常に最善を尽くすということを徹底して叩き込まれたように思います。開業後、診療の内容は外科処置より保存や補綴といった分野の方が多くなりましたが、この教えは常に念頭におき診療を行っております。

予防歯科の実践について

貴院が予防歯科を実践する上で軸にしているMTM(メディカルトリートメントモデル)と一般的な予防歯科との違いについて教えてください。

「一般的な予防歯科」とはどのようなものなのか良くわかりませんが、私たちが行っているMTMを軸とした予防歯科は単にブラッシング指導を行う、フッ素を使用する、PMTCを行う等という診療のオプションとしての行為ではなく、初診として患者さんを受け入れてからメインテナンスを継続するまでの一連の診療全てを通して、患者さんの歯と口腔の健康を一生涯守り続けるというものであると思います。そこには、患者さんの持っているう蝕や歯周病の発症リスクを把握し、そのリスクを改善するための処置や患者教育、さらに長期的な検査データを蓄積、活用することにより生涯に渡って健康な口腔機能を守るという真の患者利益を追求する姿勢があると思います。
メインテナンスの重要性は言うまでもなく、治療が必要な患者さんにおいて、MTMでの初診検査や初期治療は全ての治療のベースとなるステップであり、ここを適切に行わなければ治療は成功しないと言っても良いと思います。このような考えに基づいて、私たちは全ての患者さんに対してMTMに沿った診療を受けていただきたいと考えています。

患者さんが予防歯科の重要性を理解して継続的にメインテナンスに通ってもらうため、貴院が行っている取り組みについて教えてください。

患者さんに継続的にメインテナンスに通ってもらうためには、なぜ予防歯科への取り組みやメインテナンスが必要なのかということを十分理解していただき、患者さんの行動変容を促すことが重要であると考えています。
そのためには勤務医や歯科衛生士を中心に診療の各ステップで患者さんに十分な説明をすることはもちろんですが、私が月に2~3回成人を対象にした予防歯科セミナーを、小児部門においては歯科衛生士と非常勤の小児歯科専門医が患者さんセミナーを開催する等、できる限り予防歯科に関する情報発信を行っております。
また、歯科医師や歯科衛生士といった直接患者さんと接するスタッフへの教育はもちろん十分に行わなければなりませんが、それ以外のスタッフ、つまり歯科技工士、アシスタント、受付さらに事務職員に至るまで医院の全スタッフが予防歯科、メインテナンスの重要性について深く理解している必要があると考え、毎月歯科衛生士がスタッフ向けの予防歯科セミナーを行っております。
さらに、患者さんに快適にメインテナンスを受けていただくための取り組みも重要であると考えております。4Sの行き届いた完全個室のメインテナンスルームや待合室とともに、もう1つのS(躾や接遇)についても全スタッフが患者さんに対して心地よい医療サービスを提供するために重要なこととして継続的な研修を行っております。

8028を達成するためには、子どもの頃からの予防が非常に重要です。貴院ではどのような流れで小児予防・矯正を実践されていますか?

低年齢からの受診により永久歯カリエスフリーを多く育成できることがわかっているため、できるだけ低年齢からの受診や母子への教育を進めております。
低年齢児には、母親と子どもに対してう蝕や歯肉炎を発生させないための生活習慣の確立を目的に、診療室での診療の前に歯科衛生士と保育士が協同して、遊びながら歯磨きの習慣を身に付けてもらう等の小児専用のセミナーフロアでの指導を受けていただきます。
また、保育士が在籍しているので、主に小児メインテナンス患者のお母様の診療中にお子様の託児(一時預かり)も行っています。小児のカリエス予防のためには、母親のメインテナンス受診も重要な要素と考え、母親の受診しやすい環境を作ることも必要と考えています。

全てのライフステージの患者さんに対応できるシステム構築を目指す

全身疾患のある患者さんの対応について

歯周病と全身疾患は大きく関わっていますが、そのような疾患をお持ちの患者さんの治療の流れや他科との連携について教えてください。

中高年の患者さんの中には、生活習慣病等に関連した何らかの疾患を持っている方が非常に多くなっております。また、最近では骨粗鬆症治療としての骨吸収抑制剤等の服用、抗血栓療法を行っている患者さんなどもしばしば来院されます。予防を中心とした治療の流れに特に大きな変化があるわけではありませんが、そのような点から当院ではいわゆる医療安全への取り組みを積極的に行っております。
OP歯科医院として滅菌、消毒等の院内感染対策はもちろんですが、医療事故を防止するための取り組みに関しても重要と考えています。全身疾患の状態や治療の内容等を考慮し、必要な場合は内科主治医への対診等、密な連携がとれるような配慮をしております。特に、近隣の循環器内科専門医や糖尿病内科専門医とはより密接な連携が取れる体制を整えております。
また、糖尿病専門医とは歯周病との関連の点からも連携を進めており、勤務医や歯科衛生士に向けた糖尿病に関する講義等をしていただくこともあります。さらに、アドバイスをいただき必要と思われる患者さんには簡易血糖測定を行っており、糖尿病専門医に受診を勧めることもあります。
将来的には、歯周病を中心とした全身疾患との関係あるいは有病者の歯科治療等から医科との連携はますます必要となるため、密に連携をとれる医科専門医をさらに増やし、ネットワークを構築できればと考えております。

地域のホームドクターとしての取り組みについて

現在、貴院は医院から半径16km圏内にある自宅や施設に訪問診療を行っていらっしゃいます。今後は更なる少子高齢化の加速が予想されますが、歯科医院ではどのような人材や体制が求められるとお考えでしょうか。

訪問診療については、地域において住民や自治体から多くの要望があるにもかかわらず訪問診療を行う歯科医院が増えてこないことから当院でも行うことになりましたが、医院の診療方針は予防メインテナンスが中心ですので、訪問診療は最小限にとどめているのが現状です。
現在は、歯科医師会や一度訪問診療に伺った施設からの依頼などがありますが、当院でメインテナンスを受けていたものの、高齢となり通院できなくなった方々を訪問してメインテナンスを行っています。患者さんの全てのライフステージに応じて、メインテナンスを提供することが必要と考えておりますので、難しい問題は多々ありますが、今後はメインテナンスを受けていた患者さんの中で通院できなくなった方を中心に訪問診療が行えるようなシステムを構築していきたいと考えています。これからの歯科医院の体制を考えると予防を取り入れていることは言うまでもありませんが、小児から高齢者への訪問診療も含めて患者さんの全てのライフステージに応じた切れ目のない対応が求められているのではないかと考えています。
また、高齢化により来院される患者さんの年齢が高くなっているため、中高年の多くの方が生活習慣病を中心とした何らかの疾患をお持ちです。安全な歯科医療を行うことができる体制を整えていることは基本ですが、地域において患者さんのかかりつけ医との連携が十分とれる体制も必要だと思います。さらに、歯科医療自体も近年では高度な専門的治療が進歩しているため、これらの専門的な治療を求める患者さんへの対応も必要であると思います。歯科診療所間のグループ化、あるいはネットワーク化、または自院でのある程度の規模の確保等が必要になってくるのではないでしょうか。
オーラルフィジシャン歯科医院として、予防歯科を中心とした質の高い診療を提供できる体制づくりはこれからの歯科医院のあり方を考えた上でも理にかなった方向性を持っているものと思います。

スタッフが自主的に取り組み、長期的に働くことができる医院づくり

採用・教育・マネジメントについて

現在オーラルフィジシャン歯科医院では、歯科衛生士の求人に苦労する医院が少なくありません。求人・採用で工夫していることを教えてください。

現在は15名の歯科衛生士が在籍しておりますが、私たちの医院でも歯科衛生士の求人には苦労しております。
ただ、そのような中で何とか確保できているのは県内に3校ある歯科衛生士学校のうち2校と学生の臨床実習施設として提携していることが大きな要因であると思います。実習生には当院での研修を通じて知識や技術の習得に加え、予防歯科のシステムや本来の歯科衛生士としての業務、歯科衛生士としてのやりがい等について学んでもらいます。しかし、学生も様々です。当院のような環境で予防歯科を積極的にやりたいと希望する者もいれば、このようなシステムにおける責任や仕事・勉強の量の多さに躊躇してしまう学生が多いのも事実です。学校の教員等からも不安な学生へのアドバイスをしていただくこともありますが、歯科衛生士学校における教育の中で特に臨床実習においては診療補助のスキルアップの部分が多く、本来の歯科衛生士の業務である予防処置や保健指導についてのカリキュラムが少ないように思います。これらの改善をうまく図ることができれば、予防歯科を希望する学生も多くなるのではないかと思います。私たちからの歯科衛生士学校等へのアプローチも必要であるかもしれません。
入職後は、1年間でMTMに沿った最低限の歯科衛生士業務ができるようになるための教育カリキュラムに沿った研修を行います。できるだけ長く歯科衛生士に勤務してもらうための医院としての体制も整備しつつあります。「産前産後休業」、「育児休業」は労働基準法に沿った形で取得可能としております。また、「育児休業」から復帰後も「育児短時間勤務」も採用し、子育てと仕事が両立できるようなフォローアップをしております。さらに、患者さんの検査データや医院としてのメインテナンスのデータを収集、整理しておくことは非常に大切ですが、それにより歯科衛生士の疲弊が大きくなっては長期勤務も難しくなることがあるのではないかと思います。当院では、歯科衛生士として担当患者さんに関することには責任を持つことを忘れないようにしながら、仕事量を軽減するための対策も行っております。

予防歯科の実践にチームワークや目的意識の共有は必須ですが、教育・マネジメント面で大切にしていることを教えてください。

予防歯科を実践する上では患者さんへの指導や教育が大切なことは言うまでもありません。
歯科衛生士は入職してから1年間は教育カリキュラムに沿った研修を行いますが、それらに加えて全ての歯科衛生士に対して毎週火曜日のランチタイムを利用して行っている症例検討会や月一回の症例発表会、患者さん向けセミナー等を通じて患者さんにわかりやすく説明、指導ができるためのプレゼンテーション能力の向上にも配慮しています。
さらに、治療やメインテナンス等の診療に関する質を上げていくことは当然のことですが、全てのスタッフが社会人としての基本的な仕事上のマナーや接遇も向上させ、医院全体としての歯科医療サービスの質を高めていくことも重要であると認識しています。
医院のマネジメントに関しては以下の3点が重要であると考えています。
1つ目は明確な組織体制を整えることです。各スタッフの業務範囲、責任分担を明確にすることや、業務手順をマニュアル化して明確にすることにより、スタッフが自主性を持って仕事ができるような仕組みを作ることは重要だと思います。
2つ目は人材育成です。特にリーダーの育成には力を入れております。現在、当院はパートタイム・スタッフ等を含めますと総スタッフ数が40名を超える、歯科医院としては大きな組織となりました。トップマネジメントである私は診療を行いながら医院のマネジメントも行う、いわゆる「プレイング・マネージャー」ですので、1人で十分行き届いた医院管理を行うには限界があります。そこで当院には、私の思いや医院のビジョン等を十分理解したリーダーがいます。さらに研鑽を積まねばならないことは多々ありますが、彼らの存在は非常に大きいと考えております。
3つ目は課題抽出と改善のためのシステムです。組織が成長するためには常に問題意識を持ってマネジメントを行うことが大切だと思います。医院の中では次々と色々な問題が起こります。当院では、スタッフから毎日上がってくる医院日報や毎月集計を行っている様々なマネジメントに関するデータ等から、常に現状の課題を抽出するシステムを備えております。また、その課題を改善するためには明確な目標を設定し、目標を達成させるためのサイクルを回すことが必要であると考えております。

OP医院として積極的に地域企業に働きかけ、「医と産業」の連携を進める一翼を担う

診療データの情報共有について

クラウドサービスを利用して診療情報を患者さんと共有することに対しての患者さんの反応、スタッフの労力、その効果などを教えてください。

クラウドサービスを開始してまだ数か月足らずのため、登録をした患者さんの数が少ないのが現状ですが、若い世代の方にはスムーズに受け入れていただいているようです。
特に小児メインテナンスの患者さんの母親は子供の口の中の情報を常に見ることができる等の点から他の世代の方々と比べて関心が高いようで、クラウドサービスのご提案をすると8割くらいの方が受け入れてくださるようです。さらに特に関心の高い方は友人等にいつでも紹介できるため、このような方々により拡大することが可能ではないかと期待しています。
まだ慣れない作業のためアップロードするための資料作成等に多少時間がかかっているようですが、歯科衛生士がメインテナンスで説明した内容をいつでも、どこでも手軽に再確認していただくことにより、口腔への関心、自分の歯を守ろうという意識が高まっていくのではないかとスタッフも期待しているようです。

OP医院として

OP医院の中核医院として、また大規模歯科医院として、OPで取り組んでいる「医と産業の連携」の今後の地方都市での方向性、可能性をどのようにお考えか教えてください。

企業の健康経営が注目されており、大企業だけでなく地方の中小規模企業においても積極的に健康経営に取り組む企業が増えているようです。特に地方では、近年少子高齢化に伴う人口減少等により働き手の不足や従業員の高齢化が進んでいます。このような状況下で健康経営に取り組むことにより、生産性や企業の価値、従業員の定着率の向上につながり、魅力のある企業に成長できるとも言われています。地方の企業においてこそ健康経営は重要なものとなってくるのではないでしょうか。
具体的な取り組みの中で予防歯科への助成等を行っている企業はまだ少ないのが現状であると思われます。しかし、口腔の健康が全身の健康にもつながること等を私たちが啓発することにより、歯科メインテナンスを取り入れる企業も増えてくると思います。日吉歯科と酒田市の企業における連携という良いお手本があるわけですから、私たちもOP医院として積極的に地域企業への働きかけを行い、健康経営の中に歯科メインテナンスを導入し、「医と産業」の連携を進める一翼を担えればと思います。

全ての歯科医療サービスの質を向上させ、質の高い患者さんを育成する

今後の展望・展開について

今後の展望・展開についてお聞かせください。

当院がOP歯科医院になって10年が経過しました。その間に歯科衛生士の数も5名から15名になりました。さらに、一昨年2回目の医院の増築リニューアルを行い、メインテナンスルームが12室、治療室が8室になり、全てを個室化することができました。現在メインテナンスを継続受診していただいている患者さんも約3,000名となりました。年間を通してメインテナンスを求めて来院される患者さんの割合が約52%となり、半数以上の方にメインテナンスのため来院していただいております。
予防歯科を推進する医院として、この10年で何とか形を作ることはできたのではないかと思います。しかし、当然のことながら形も必要かもしれませんがその内容の方が重要です。
今後はいかに質の高いメインテナンスや治療を行うことができるかということに力を注がなければならないと考えております。診療の質を上げることは当然ですが、治療を含めた全ての歯科医療サービスの質を高めていくことが必要であり、結果としてそれが質の高い患者さんの育成にもつながると考えています。

早乙女先生による自己評価(5点満点)