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木村雅之先生:菰野きむら歯科

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一つ一つの所作をいかに丁寧に美しく。その積み重ねが結果的に一流へと変化していく。

歯科医師を志した理由について、教えていただけますか。

会社員の息子と、よくある一般的な家庭でした。ただ、叔父が医師、祖父が薬剤師と親族に医療関係者が多かったせいか母は、本当は医者になって欲しかったのだと思います。しかしながら親の心子知らず。ほとんど勉強をしておりませんでした。人生の間違いに気が付いた17歳の夏。慌てて勉強を開始しましたが、それほど人生は甘くない。歯学部に入学した理由は、人よりも数年長く大学受験を行うも、入れる医療系大学が歯学部しかなかったからです。

歯科大学に入学してから現在に至るまでの経緯・学びについてお聞かせください。

もともと将来の夢など持っておらず、医療人になりたかったのも親に言われたから。だから医学部でも歯学部でも、特に気にしておりませんでした。何とか入った大学も、勉強そっちのけで部活三昧。そんな人生を送っておりましたので、正直、社会人となり合法的に人の体にメスを入れられる歯科医師となることは、少し怖かったです。ただ、いざ歯科医師になってみると、これが本当に面白い。大学受験までとは異なり、自分が学んだ事は全て社会貢献に役立ちます。人生で初めて「勉強が楽しい」と感じられるようになりました。自分が意外にも必要とされていると、喜びを感じられたのが大きかったのかもしれません。だいぶ遠回りをしてきましたが、結果的に今の学び意欲に活かされていると思います。

ある程度仕事にも慣れ、保険診療はほとんど自分で卒なくこなせる様になるまで、それほど時間はかからなかったと思います。だからこそ、よくある落とし穴にハマりました。

同じ診療所で何年も勤務をしていると、自分が治療した患者さんが再治療のためにやってくることは良くあります。そうすると口腔内環境をみるだけで、きっとこの患者はまた再治療にやってくるだろう、と何となく分かるようになります。今でこそ恥ずかしい話ではありますが、治療することに意義は感じておりました。患者さんを治していると、自負はありました。
ある日に自分の母が、歯が痛いと自分が勤務する歯科医院にやってきました。その時に口腔内を確認すると…予想が出来てしまったのです。あぁ、たぶん母親はこれから何本も歯を失うことになる、と。それを治療しなければならない。でも、自分では将来的にずっと食事を出来るようにすることが不可能だと、分かってしまった。正確に言えば、その歯をとりあえず処置して噛める様にすることは出来る。でもいずれ再発するだろう、崩壊が始まる。そうすると、だんだん怖くなります。自分の親にですら、幸せになる医療を行っていないのに、果たして自分が今診ている患者達は幸せか?と。
その迷いが出た時に、たまたま偶然、家内の勧めでプレOPセミナーに参加することになりました。本当なら自分には受講資格が無かったのに、人との巡りあわせにより、受講可能に。そこで見たものは、一人の歯科衛生士の数十年における、ただ一人の患者さんの経過を追った口腔内写真たち。表現された正確な規格性、それはまさに芸術。一流は、人の心を動かします。
最先端の医療技術が最高なのではない。一つ一つの所作をいかに丁寧に美しく。その積み重ねが結果的に一流へと変化していく。「医療の本質とは何か」というものを改めて考えさせられ、人生で初めて「自分もこんな風に格好良くなりたい」と本気で思いました。自信をもって提供できる医療の形を自分も作りあげていくためには、予防歯科は不可欠なものだと気づかされた瞬間でした。

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オーラルフィジシャン育成セミナー(2017年53期)の受講理由、またその学びや受講後の臨床現場で活かされていることについて、教えていただけますか。(2023年1月現在 73期)

オーラルフィジシャン育成セミナーに参加すると必ず言われる一言があります。それは「ここは技術や治療法を学ぶ場ではない」という事。自分は心を学ぶ場だと思っております。
 一つ一つを丁寧に、美しく。それは全ての診療にも通じます。いや、人生そのものにも通じます。迷いが生じたとき、本当ならば自分はどうしたかったのだ、と心に聞けるようになりました。

貴院が診療軸にしているMTM(メディカルトリートメントモデル)と一般的な診療との臨床結果の違い、患者さんの満足度について教えてください。

僕だけが努力しても、臨床結果は著しく上昇はしません。でも患者さん自身にもスキルアップしてもらうことにより、より良い臨床結果が生まれます。虫歯治療も歯周治療も矯正治療も、全てです。それはすべてのオーラルフィジシャンの先生方がおっしゃられることだと思います。
MTMの最大の長所は、スタッフと患者さんの成長。病気にはほとんどに原因が存在します。原因を突き止め、除去してあげれば、改善に向かいます。でも、その原因を除去するためには、患者さんの努力も必要です。
人は誰しもが、自分が成長したと実感した時に満足度は高くなります。医療者と患者さんが一緒に努力することで、より良い臨床結果となり、患者さん自身もより高い満足感が得られています。

患者さんが予防歯科の重要性を理解し、継続的にメインテナンスに通っていただくために、現在どのような取り組みや工夫をされていますか。

徹底した情報共有です。現在の健康状態と、これから起こりうる可能性を説明し、いかに健康を維持・増進していくかとお話をさせて頂いております。他人事ではなく、自分事して、認識して頂ける様に。患者さん自身がその必要性を認識して頂ければ、おのずと継続的にメインテナンスに自発的に通院される様になります。

本年よりメインテナンスを自費に移行されたとの事ですが、自由診療化に至ったきっかけとそこに至るまでに苦戦した事がありましたらお聞かせください。

自分達が求めている歯科医療は、患者さん達と共に健康を作り上げていく医療の形です。しかしながら、保険診療の範囲で治療を行っていくと、どうしても患者さんが医療者に甘えてしまい、他力本願になってしまうことが度々見受けられました。メインテナンスを自由診療化したのは、高い医療費をお支払いして頂くことで、患者さんにもセルフケアに対して覚悟を持って頂きたい、と考えたからです。自分への健康への投資として、自覚を持って頂くこと。そして自分達医療者は、その期待に応えられる様、切磋琢磨していかなければなりません。患者さんも医療者も、お互いにメリットしかありません。
 そこに至るまでに苦戦と言いますか、悩んだことであれば、おそらく収入が下がるだろうな、と言うことくらいです。でも、それは自由診療化された先生方が皆おっしゃられていて、そして何れの先生も皆、解決されています。自分は、子供の養育費くらいが手元にあれば、十分かなと。信念を曲げずに突き進めば、正しいことを行っていれば、必ずや道は開けるはず。そして何より、歯科医療の価値をあげるためには必要不可欠なことだと信じ、メインテナンスを自由診療化しました。

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貴院の所在地である三重県菰野町の患者傾向の特徴を教えてください。また開業後(2016年)今年で7年となるかと思いますが、現在の患者さんの口腔内の状況や診療二―ズに変化はございますか。

人口は約4万人、親子3世代で住まれている家庭が非常に多いです。そのため、3世代で通院して頂いているご家庭も多くいらっしゃいます。大家族が多いからか、3人兄弟や4人兄弟なども多い印象です。しかしながら齲蝕の罹患率は非常に高く、12歳児DMFTなどは県内で常にトップ。歯科医院そのものも全国平均と比べて少なく、小児に言及しますと、歯科受診しているのに治療が追い付いていない患者さんも多数見受けられます。そのため、何年も歯科医院に通院しているのに治らないと、親御さんが子供のためにセカンドオピニオンとして来院されることも多々ありました。
 開業してはや7年、開業当初では行っていなかった外科処置や矯正治療も、信頼して頂いている患者さんの期待に応えるために多くを勉強し、実践してきました。期待をされるからこそ、患者さんの心に報いなければなりません。患者さんからも勉強させて頂き、当院の成長を見守って頂きました。診療のニーズはどんどん幅が広くなってきていると実感しております。
 現在では予防歯科として地域に浸透してきているのか、根本的な口腔健康を求めて来院される方も増えてきました。都会であろうとも地方であろうとも皆、健康になりたいことには変わりありません。メインテナンスの自由診療化についても、健康への自己投資だとご納得頂ける声が多かったのは、素直に嬉しかったです。

現在、歯科界では歯科衛生士の採用に多くの医院が苦労されています。 貴院では歯科衛生士の担当制を取り入れていらっしゃいますが、歯科衛生士の採用・教育・マネジメント面で大切にしていることがございましたら、教えてください。

歯科衛生士の採用については、当院も御多分に漏れず、苦戦しております。特にイノシシやシカが出没し、昼間は駐車場にサルが散歩している様な田舎では、歯科衛生士を募集してもなかなか集まりません。また、優秀な人材や向上心のある若手ほど、都会に気持ちが向いてしまいます。
患者さんと歯科衛生士の方が、個々の口腔内を通じて、長い時間を共有しております。治療法を決めるためには当然、担当歯科衛生士の視点も必要。歯科衛生士が言いたい時に言える事が重要。いつも必ず歯科医師が選択する治療法が正しいとは限りません。結果的に、その患者さんの生活背景や生活習慣に適した口腔内環境を整えられます。歯科衛生士達の責任は増すかもしれません。でも、それが医療者として本来の患者を診る力が向上し、歯科衛生士達のやりがいにもつながります。限られた人事の中で人を育てるためには、トップダウンではなく、歯科衛生士が自ら考え行動する環境を整えることだと思います。

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クラウドサービスを再開するにあたり、期待していること、あるいは運用上の不安な点がありましたら教えてください。

不安な点は単純に、どのタイミングで一日の流れの中にクラウドサービスを導入していくのか、始めていないので分からないと言う点です。走り始めてしまえば解消されるのでしょうが…まだ時始めていないことが不安なのだと思います。
逆に期待している点は、精度の高い治療や、規格性のある資料を採取していかなくてはならない、と言うプレッシャーを自分やスタッフにかけられることにより、日々の診療の精度が高くなります。結果的に、それは当院における新たな付加価値となり、患者さんへの情報提供は元より、歯科医療の価値向上へとつながっていくものだと信じております。

現在OPで取り組んでいる「医と産業の連携」において、地方での取り組みの方向性・可能性について先生のお考えをお聞かせください。

あまりに当たり前の事かもしれませんが、産業を行う上で、スタッフが健康であることは必要不可欠です。従業員が健康的であるほど生産性は安定して高くなります。人口減少を迎え、必要な労働力の確保のためには、如何に健康的な人材を集められるか、もしくは集まった人材を如何に健康に導けるか、大きな分岐点です。
過去の産業医の役割は、どうしても病気の予防や早期発見など、現状維持に注力されてきている感が強かった。しかしこれからの時代はむしろ、より健康的になるためになるためにはどうしたら良いのか、が役割に加わるものと考えます。
現代の流れとして福利厚生の選択肢の一つに、健康志向の項目が増えてきているのもその兆候。我々歯科の範囲でも、口腔から始まる健康に寄与できる事は多々あります。医が産業を支える。歯科も十分に、いや歯科だからこそ、健康を通じて産業の発展に寄与できます。
今は大手企業の一部しか実装されておらず、菰野町と言う片田舎では、夢物語です。しかし裏を返せば、「伸びしろ」しかありません。保険診療に縛られていては無理。その為の自由診療。その価値を、本来の歯科医療の価値を、証明してみたいと思います。

さらに予防歯科を普及させるためには、どのような取り組みが必要になるか先生の考えやアドバイスがございましたら、教えていただけますでしょうか。

少子高齢化の今、健康志向の高まりは加速し、予防歯科も自然に普及すると思います。但し、それは本当の予防歯科だけではありません。医療に限らず何れの業種でも、流行の業態に集中すればオーバーストア状態となり、価格競争が起きます。保険診療では最低限の価格が担保されておりますが、質的担保とは異なります。保険診療に拘れば、質的担保は保障されません。それでは、医療者も患者さんも不利益となる恐れがあります。
 繰り返しになりますが、予防歯科は自然と普及します。それは時代の流れ。大切な事は、その時に確かな予防歯科を普及させること。確かな医療者が、熊谷先生の様に、憧れられる存在になること。これから数多く増えてくるであろう予防歯科を標榜する他の診療所に、僕達は真似をしてもらえる様な存在となることです。少なくとも僕は、熊谷先生に一流とは何ぞやと気付かされ、そして憧れ、模倣していくことから始めました。他のオーラルフィジシャンの先生方の様に高品質の予防医療を継続的に行うことで、結果的に他の診療所も質の向上を図らなければいけなくなります。しかし残念なことに、保険診療に囚われていれば、模倣して頂く他の診療所もそれ以下の質しか模倣されなくなります。だからこそ、オーラルフィジシャンであるからこそ、束縛のある保険医療から脱却し、確かな質の予防医療を自由診療として行うべきだと考えます。

最後に貴院の今後の展望・展開について教えてください。

自分は幸運なことに、多くの人たちに導かれて、今の診療所があります。熊谷先生をはじめとした一流の先生方に憧れて、この道に足を踏み入れました。
 医療の道に限りませんが、大切なことは心です。一流は、人の心を動かします。僕は動かされました。だから、更なる高みに行きたいと願いました。それは、一緒に研修に参加したスタッフも同じです。僕自身の能力はたかが知れています。でも、同じ心を持ったスタッフと一緒に働いていくことで、今の診療所が出来ました。だから、元来ならたどり着けなかった領域まで進めたのだ、と思います。
 自分が進みたい道は、歯科医療の価値向上。誰かの心を動かせるような存在となること。それが予防歯科に関らず、歯科医療の地位向上につながり、後進育成につながると信じております。
 熊谷先生は、日本の歯科医療の形を変え、日本全体の地域医療の質的向上を図り、実際に変えてしまいました。僕には日本全体は無理でも、菰野町と言う小さな町位の地域は変えられるかな、と思います。出来なくて当たり前。出来たら名誉。だからこそ面白い。挑戦あるのみです。

先生による自己評価(5点満点)