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下松デンタルアカデミー卒業研修レポート
――アカデミアと臨床の哲学が結実した2日間

山口県下松デンタルアカデミー 卒業研修

2024年9月24日夕刻から25日にかけて、山口県下松デンタルアカデミーの卒業研修が、山形県酒田市の日吉歯科診療所で行われました。
校長の栗原英見先生、教員の草野戸美子先生の引率のもと、12名の学生が参加しました。

日吉歯科診療所・熊谷崇先生による講義

今回は有志による研修であり、限られた条件のなかでも「本物を見たい」「学びたい」という強い意志を持って集まった学生たちでした。
迎える日吉歯科診療所からは、熊谷崇先生をはじめ、歯科医師・歯科衛生士が学生たちを温かく迎えました。

「本質を踏まえる」――栗原・熊谷両先生が20年貫く予防歯科の哲学

院内見学の合間に談笑する栗原・熊谷両先生

山口県の歯科衛生士学校が、遠く東北の酒田まで研修に訪れる理由。
それは、校長・栗原先生の強い信念と、熊谷先生の臨床哲学にあります。

20年以上前、有楽町・読売ホールで開催されたヘルスケア歯科研究会で、栗原先生は熊谷崇先生の講演を聴き、深い感銘を受けました。
当時すでに広島大学教授として活躍していた栗原先生が、一臨床家である熊谷先生を長年にわたり尊敬し続ける理由を尋ねると、こう答えました。

「本質を踏まえていること」

多くの組織が経営効率を優先し、本質を犠牲にしてしまう中で、熊谷先生は理念を軸にした医療を一切の妥協なく貫いてきました。
その姿勢こそが、アカデミアである栗原先生の心を動かし続けてきた原点です。

理念を行動へ――アカデミアが選んだ臨床の“本物”

下松デンタルアカデミー栗原校長による講義

昨年、栗原先生は学生たちに熊谷先生の話を直接聞かせたいと願い、山口での講演を実現。
その噂を聞きつけた近県の歯科関係者が次々と集まり、看護師など医療従事者も含め150名以上が聴講しました。
当初予定していた専門学校の会場では入りきらず、急遽別会場を準備するほどの反響だったといいます。

そして今回、その学びを“実体験”へとつなげるため、学生たちは熊谷先生の原点である日吉歯科診療所へ足を運びました。

現場に触れる体験が学びを自分のものにする。今回の研修は、その考えをかたちにした取り組みでもある。

「日吉モデル」を支える教育者としての歯科衛生士

実習:日吉歯科・歯科衛生士による口腔内写真の説明と実習

日吉歯科診療所では、1つの個室に日吉の歯科衛生士1名と、学生6名が入り、2つのグループに分かれて口腔内写真撮影やデンタル撮影などの実技を学びました。
広さと動線設計にゆとりがあり、まさに“学びのために設計された診療空間”であることを体感しました。

指導にあたった日吉の歯科衛生士たちは、単なる手技指導にとどまらず、臨床の背景や予防哲学までを語る教育者でした。
講演活動をこなすほどの知識・技術・教育力を備えたスタッフが約20名在籍しており、その層の厚さが「日吉モデル」の根幹を支えています。

知識を“使う力”を育てる――教育の核心

実習:日吉歯科・歯科衛生士による口腔内写真の説明と実習

この研修は、技術の習得を第一の目的とするものではなく、
その背景にある「知識をどう考え、どう使うか」という力を育てることに重点が置かれています。
熊谷先生も栗原先生も、知識そのものの習得だけでなく、その知識を臨床の中で自らの判断に結びつける力を大切にしています。
それは、知識を“終わり”ではなく、“思考の出発点”として捉える教育です。

見たり、読んだり、聞いたりしたことは知識にすぎない。
経験して初めて、それは情報になり、考えを生み出す。

両先生はまさに「種をまく人」です。
知識を投げ与えるのではなく、学生の心に小さな種を置き、それが自ら芽吹くのを待つ──。
そんな教育の在り方が、現場の一つひとつに息づいていました。

人をつなぐ力、循環する哲学

日吉歯科診療所院内見学をする学生

もう一つ、両先生に共通するのは「人をつなぐ力」です。
この人とこの人を出会わせれば、新しい学びが生まれる──
そんな“出会いの設計”を日常的に実践しています。

今回の研修も、アカデミアと臨床、教育と現場、指導者と学生という異なる世界が交わることで生まれたもの。
人をつなぎ、分かち合いながら新しい文化を育てる姿勢は、まさに予防歯科の精神そのものです。

次のステージへ――歯科衛生士が導く未来

会食:懇親会を主催した熊谷先生にお礼をする学生

懇親会では、熊谷先生自らが主催し、学生たちを温かくもてなしました。
そこには「教育とは教えることではなく、体験を通じて感じさせること」という信念が息づいていました。

そしてこの研修は、歯科衛生士が“医療者”としての役割を確立した現在、さらにその先のステージを目指す学びでもありました。
予防歯科を推進する歯科医院を、より高い水準へ導く力。
そして、歯科衛生士という職業の社会的地位をより確かなものとし、次の世代に「この道を歩みたい」と思わせる力。

日吉歯科診療所でのこの時間は、その“次の扉”を静かに、しかし確かに開いた瞬間でした。

CRECER/JOF 伊藤

=ギャラリー=

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