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仕上げ磨きにフロスはいりませんよ~!

 0歳〜7歳前後のお子さんには、保護者の方々に仕上げ磨きをしてあげてほしいのですが、この仕上げ磨きも今では常識的に行われるようになって、わざわざそのように言う必要もなくなりました。私など、昭和世代は小さい頃に仕上げ磨きをしてもらったことが一切ないくらいなのですが。

 しかし、仕上げ磨きの際にフロスをかけてあげるのに苦労している保護者の方もいるみたいです。それをスウェーデンのむし歯学の先生に言うと目を丸くされます。よくよく調べてみると、確かに、日本ではお子さんにフロスをかけるように指導している歯科医療従事者もいますし、ネット情報にもそのように書かれているものが結構多いです。

 しかし、フロスの効果について分かっていることは、歯肉炎予防には効果があるものの、むし歯と歯周炎予防には効果があるとは認められないということなのです。仕上げ磨きが必要な年齢のお子さんたちには、歯肉炎予防はそこまで重要ではありませんので、フロスは省略して大丈夫です。・・・こう言われるとだいぶ肩の荷が下りたのではないでしょうか?

 ところが、今までむし歯予防のためにということで仕上げ磨きにフロスを指導したり、小学生にもフロスの習慣づけをつけるよう指導したりしていた人たちにとって、この事実は「不都合な事実」であるようで、むし歯の専門家が歯科医療従事者にフロスの科学的根拠を示しても、明日から患者さんにどう言えばいいのか戸惑う場合が多いようです。特に、何かを足すことに比べて、減じることには抵抗があるように感じます。

 患者さんたちにおかれましては、是非、古い知識から新しい知識へと指導内容が変わることで、かかりつけの歯科医や歯科衛生士への信用を失わないでください。科学は日進月歩で進んでいて、10年前、いや5年前には想像さえできなかったことが次々と起こる時代です。フロスの効果について以前と違う科学的根拠が登場しても不思議ではありません。それはフロスのことだけでなく、歯科関係の中でも様々な常識が覆って当然なのです。

 かかりつけの歯科医や歯科衛生士の言うことが今までと変わってしまうと戸惑われるかもしれませんが、むしろ、そういう歯科医や歯科衛生士の方が、何十年も同じことを言い続けている人たちよりも、科学の進歩に忠実で信用がおけるかもしれません。

 ところで、フロスのむし歯予防効果には例外があります。歯科医療従事者による毎日のフロスがけはむし歯予防に効果があるという研究結果が出ています。これはどういうことかというと、そこまで普通の人たちと歯科医療従事者のテクニックに違いがあるということなのです。では、普通の人たちにもそのくらいのテクニックをトレーニングしたらいいのではないかという意見もあるかもしれませんが、これは「労多くて効少し」。しかも、フッ化物配合歯磨剤を使っていると、バイオフィルム(プラーク)が少しあるくらいの方が、フッ素の貯蔵庫になってくれるという、大変複雑な要素も絡んできます。むし歯予防は結構奥が深いですね。


写真説明

2歳の誕生日にロウソクを2本立てている2歳児。


参考文献


  1. Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, Sambunjak D, Johnson TM, Imai P, Clarkson JE. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Apr 10;4(4):CD012018.

  2. Hujoel PP, Cunha-Cruz J, Banting DW, Loesche WJ. Dental flossing and interproximal caries: a systematic review. J Dent Res. 2006 Apr;85(4):298-305.

  3. de Oliveira KMH, Nemezio MA, Romualdo PC, da Silva RAB, de Paula E Silva FWG, Küchler EC. Dental Flossing and Proximal Caries in the Primary Dentition: A Systematic Review. Oral Health Prev Dent. 2017;15(5):427-434.

  4. Tedesco TK, Calvo AFB, Pássaro AL, Araujo MP, Ladewig NM, Scarpini S, Lara JS, Braga MM, Gimenez T, Raggio DP. Nonrestorative treatment of initial caries lesion in primary teeth: a systematic review and network meta-analysis. Acta Odontol Scand. 2022 Jan;80(1):1-8.

  5. Chen H, Hill R, Baysan A. Systematic review on dental caries preventive and managing strategies among type 2 diabetic patients. Front Oral Health. 2022 Nov 18;3:998171.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得