Skip to main content

安易に使われる用語「科学的根拠」について

 今日、歯学も含めて医学関係の記事やニュースでよく使われる最も強力なキーワードの一つが「科学的根拠」とか「科学的エビデンス」です。どちらも英語の“scientific evidence”の訳語です。このキーワードが使われていると、あたかも科学的な研究によって、その治療方法や予防方法が客観的に証明され、信頼性があるように聞こえるのですが、実は、結構な曲者キーワードです。そのワケをご説明しましょう。そして、言葉のちょっとしたトリックに惑わされない知識を身につけてください。

 「科学的根拠」と言われるものの源は、ほとんど全てがいろいろな言語で書かれた学術論文です。この学術論文が世の中には星の数ほど存在していて、世界中で毎日何万と出版されて増えています。PubMed や Google Scholar など、インターネットによる学術論文の検索エンジンが整備されてからは、ある事柄について証明されている学術論文を探すのが、格段に簡単になりました。それと同時に、ある事柄をサポートする学術論文を一つ二つピックアップすることで、「科学的根拠」という言葉が濫発されるようになりました。

 学術論文にはピンからキリまであります。その質のランク付けはおおよそ決まっていて、このランク付けについて知っているだけで、医学関係の記事やニュースの見極め方が変わるでしょう。

 一番信頼度の高い「科学的根拠」は、系統的に学術論文をまとめたものを根拠にしています。専門用語では「システマティック·レビュー」と呼ばれます。これは、インターネットによって検索が簡単になったことを良い方に利用して、予め検索語を設定しておき、その事柄について検索エンジンを使って関連する学術論文を洗いざらい拾い上げます。中にはその事柄に反する論文も見つかりますし、分析方法が偏ったり間違っている論文も見つかります。それらを注意深く全て精査してまとめ、現在入手できる最良の「科学的根拠」を示してくれます。

 この「システマティック·レビュー」の最高峰が「コクラン·レビュー」と言われるもので、非常に厳しい基準を取っています。「コクラン·レビュー」には平易な英語でまとめたセクションもありますので、是非、覗いてみてください。

 ガイドラインや学会などの見解も、現在は系統的、つまりシステマティックに学術論文を検索して、内容の偏りを精査してまとめることが普通になりました。しかし、日本語で書かれたものの中には、そのようにしていないガイドラインや見解も散見されます。検索語をどのように設定したのか、どの検索エンジンを使ったのか、いつ使ったのか、その結果、いくつの学術論文が拾い上げられたのかといった情報も分かるようにして、誰でも検索が再現できるような配慮をしていなければ、何か問題があります。ちょっと距離をおいて見るのが良いでしょう。


写真説明

東京の中心部。学術論文はこの犇く建造物以上に溢れています!


参考サイト



筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得