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鈴木一成先生:鈴木歯科クリニック

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歯周病治療を通して、「生涯にわたる口腔内の健康」を提供し、さらにその先の全身の健康を見据える

高校時代はヨットで活躍していた青年が親と同じ職業の歯科医師となり、その先は何を見据えていたのでしょう。

歯科医師となるうえで、何か得意分野が必要と考えておりました。日本において歯を失う原因の一位は歯周病であること、歯周病の治療は、口腔内を全体(全顎)でとらえ、治療計画を立案、実践することで長期的に咬める状態にすることができることから歯周病を専門的に学びたいと思い昭和大学歯学部歯周病学講座の大学院に行きました。

大学院時代は歯周病患者の診療をしながら、昭和大学薬学部の生物化学教室にて全身疾患と歯周病の関わりの研究を行っておりました。この際に、歯周病が糖尿病、動脈硬化症や脂質異常症症(高脂血症)といかに影響しているかを深く学ぶことができました。 臨床的には治療に対する生体(身体)の反応(治癒)をアカデミカルに考えられるようになり、歯周病治療の奥深さを学びました。 大学院時代における研究成果は国際誌において3つ論文になりました。

  1. Oxidized low-density lipoproteins increases IL-8 production in human gingival epithelial cell line Ca9-22. J Periodontal Res 45(4):488-495,2010
  2. Detection of Oxidized Low-Density Lipoproteins in Gingival Crevicular Fluid from the Dental Patients. J Periodontal Res 45(2):216-222,2010
  3. Docosahexaenoic acid induces adipose differentiation-related protein through activation of retinoid X receptor in human choriocarcinoma BeWo cells. Bio Pharm Bull 32:1177-1182,2009

日本歯周病学会で専門医を取得するまでの経緯を、また歯周病患者の臨床に関するエピソードがありましたら併せて教えてください。

昭和大学勤務医時代は歯周病治療が大変面白く、重度歯周炎患者の治療を熱心に行いました。この時に治療した症例をまとめ、日本歯周病学会専門医を取得しました。

大学勤務時代、開業医より大学病院に紹介状を持って来院された広汎型侵襲性歯周炎(若い年齢で重度に歯周病が進行してしまう歯周病)の患者さんを担当しました。保存が難しい歯が多く、本来なら総入れ歯になるような状態だったのですが、「子供の参観日に出席する必要がある期間はせめて入れ歯にはしたくない」と、患者さんは強く希望していました。

そのため全顎的な歯周治療を行い、入れ歯にならず治療を終えることができ非常に喜んで頂けました。その患者さんは東京から現在の医院にもメインテナンスで通ってきてくださり、初診時から15年経過しましたが、現在も入れ歯にならずに自分の歯で食事しております。子供もとっくに成人しており、先日のメインテナンスの際には「そろそろ入れ歯でもいいかな~と思っています」、とおっしゃっていました。このように患者さんと長く付き合える楽しさも歯周病治療の醍醐味だと思っております。

また歯周病治療に魅せられたのは、大学勤務時代に恩師と呼べる先生との出会いも大きかったです。歯科医師とはどうあるべきか、歯周病治療とは、またヒトとしての在り方、人間力を教わりました。本当に出会いに感謝しております。

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歯周病専門医として予防歯科の重要性を自院ホームページで展開していますね。

重度歯周炎の治療は長期に渡り、治療自体も大変ですが、治療を受ける患者さんも非常に大変になります。大学病院勤務時代に多くの重度歯周病患者さんの治療をしていくなかで、そのことを痛感致しました。そのため、いかに歯周病が重症になる前に気づいて治療介入できるか、歯周病にならないようにするかがとても重要であり、治療の次は予防歯科をきちんと提供することが大切であると考えるようになりました。

口腔の全身への影響が喧伝される歯科界ですが、どのようにお考えですか?

口腔の全身への影響の大きさは年々とその重要性がわかってきております。例えば、 アメリカの医療保険会社、歯科医療保険会社のデータベースを基にした30万人以上の有病者を調べた大規模な調査より、歯科医院に年4回以上通院していると糖尿病患者、脳血管疾患患者の総医療費が40%以上減少していることがわかっています。これは入院費用と入院回数の減少によるものであります。(Impact of periodontal therapy on general health: evidence from insurance data for five systemic condition. Am J Prev Med, 47(2):166-174,2014)

また、日本の歯科医師2万人を対象とした論文において、毎日歯間清掃をしていると死亡リスクが減少するというのもあります(Longituidinal Evaluation of Multi-phasic, Odontological and Nutritiona Association in Dentists(LEMONADE study): study design and profile of nartionwide cohort participants at baseline, J Epidemiol, 19(2): 72, 2009.) 

このようなデータから口腔内における微小炎症(歯周病)がいかに全身に影響しているかを考察することができます。それだけ口腔内の健康は全身に寄与しており、このようなデータは歯科医師も知らない場合もあるのが日本の現状かと思います。

このようなデータから今後の歯科治療の新しい価値ということを我々歯科医師が考え啓蒙、提供することが今後の日本の歯科医療にとって必要なのではないかと考えています。

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臨床家として歯周病治療をするにあたって留意していることはありますか?

歯科医院はチーム医療が重要だと思っています。歯科医師のみではなく、スタッフ全員の気遣いや気配り、治療技術が高いレベルで統一されていることが大切です。歯周病治療においても歯科衛生士はもとより、受付、助手全てのスタッフが同じレベルで患者さんを満足させる対応ができ、全身への影響についてもスタッフ全員が共通認識として知識を持っていることが大切です。さらには歯周病治療の特徴として、そのチームの中には患者さんも加わってもらわなければなりません。歯周病治療は歯科医院と患者さんの共同作業になります。そうならなければ歯周病治療においては良い結果は生まれません。そのためにも歯科医院全体のチーム力が非常に重要なのです。

数年前に日本歯周病学会歯周病指導医を取得しましたが、その影響はありますか?

現在地に開院してから近隣だけでなく、遠方からも歯周病の治療を求めて患者さんがきてくれております。その方々のほとんどが定期的に歯科医院には通院していた方が多く、「ずっと定期健診で歯科医院に通っていたんだけれど、前回いきなりこの歯はもう抜かないとダメですよ と言われた」 とか 「ずっと通っているんだけど一向によくならない」などの方ばかりでした。

このような患者さんを多く診るにつれて、目の前の患者さんを治療して治すだけでなく、標準的な歯周病治療を提供する歯科医師や歯科衛生士の数を増やすことも大事なのではないかと考えるようになりました。そのため日本歯周病学会の指導医の取得を目指し、開院して4年目の2018年に指導医を取得、2019年には千葉県内では大学病院を含めて5施設目の日本歯周病学会認定研修施設となりました。

これにより当院において歯周病認定医、専門医を育てることができるようになりました。歯周病の治療を高い技術で実践する歯科医師が一人でも多くなることは、多くの患者さんにとって非常に有益なことであると思っておりますし、地域医療のみではなく日本の歯科医療の発展に微力ながらでも寄与できればと考えております。

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歯科衛生士に期待すること、臨床における存在価値などを教えてください。

歯周病治療、予防歯科において患者さんと一番長く接するのは歯科衛生士になりますので、高いレベルの歯周病治療を提供するには、高度な知識と技術を持った優秀な歯科衛生士の協力が不可欠と考えられます。また、患者さん自身に口腔内の健康からの全身の健康への価値観を見出してもらい、それを維持、さらにはレベルアップできるようなテクニックも必要となります。

従来の治療中心の歯科医療から予防中心の歯科医療に変化するにつれて、歯科衛生士の担う責任や役割はますます大きくなってきております。

幸い当医院にはキャリアのある優秀な歯科衛生士がおりますので、その点においては信頼して歯周基本治療を踏まえて共に治療にあたっております。

健康でありながら医院に通い続けることが、歯科医院における予防歯科の特筆すべきことです。医科においては医院へは疾患になったら通う場所であり、治癒したら通うことはありません。全身疾患と口腔内との関連を考えると、健康であるのに通う予防歯科で、全身疾患への気づきやサポートという価値観を提供できるのではないかと思っております。現在、疾病の発症前の状態で、未病(発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態)という考え方があります。歯周病治療、予防歯科において口腔内を入口として、全身の状態や未病への気づき、サポートをできる可能性があるのは、歯科衛生士であると思っております。歯科に閉じることなく、これからの医療において歯科衛生士の存在意義はどんどん増してくると考えております。

富士通社の予防歯科クラウドサービスを導入したそうですが、クラウドに期待することを教えてください。

口腔の2大疾患であるむし歯、歯周病ですが、初期のむし歯は症状がなく、歯周病もサイレントディジーズといわれ症状がなく静かにゆっくりと気づかずに進行してしまう疾患です。そのため、歯科医院から検査結果の正しい情報提供がされないかぎり、自分自身の状態がなかなかわからないことが特徴としてあるかと思います。そのため、予防歯科クラウドサービスを活用することにより、家に帰ってからでも振り返って考えたり、調べたり、または家族と相談することが可能となります。正しい情報と正しい知識を得ておくことで、5年、10年、20年先の未来の口腔内が大きく変わるきっかけになればと考えています。

またこの予防歯科クラウドサービスにおいては、規格化された診療データを取り続けることも重要かと思っています。それにより過去との比較が可能となり、患者さんにとってもまた医院にとってもフィードバックが可能となり健康を維持するには将来的に何が必要になるかを個人個人オーダーメイドで考えることができます。

最後に今後の展望をお願いします。

昔は、どちらかと言うと、「歯はいずれ抜けてしまうんでしょ」「歯が抜けても死ぬわけではないし」 とか 「親も入れ歯だったし」等 あまり歯や口腔への意識が希薄な傾向があったかと思います。しかし今では、口腔の全身への影響がとても大きいことがいろんなデータよりわかってきています。例えば、10本以上の歯の喪失や咬合支持域の減少は、死亡リスクを1.4~1.8倍上昇させることが明らかになっています。

予防歯科による口腔内の健康を入口として全身の健康を見据えた医療や医療情報を提供し、その価値を見出しながら患者さんと共に成長していける医院作りをしていきたいと思っています。

今後は日本歯周病学会認定研修施設として高度な歯周病治療を提供する歯科医師や歯科衛生士を育成していきたいと思っています。

先生による自己評価(5点満点)