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第4話 PreOP仙台 インタビュー(早乙女先生・柴田先生)

第4話 PreOP仙台 インタビュー(早乙女先生・柴田先生)

取材日:2022/4/23(土)

 2022年本サイトでも取り上げられていますが、日本オーラルフィジシャンフォーラム(以下、JOF)が設立されました。私も過去より予防歯科に触れてきて、どの先生も「教育が大事だ」と話されていることが印象に残っていました。
 そこで、今年4月に開催されたPreOP仙台に合わせて、JOF理事柴田貞彦先生(柴田歯科医院、秋田県)と、同じくJOF理事の早乙女雅彦先生(早乙女歯科医院、栃木県)に取材をお願いしました。
 なぜ教育に力を入れているのか、今回のイベントを通して若手の歯科医師に何を伝えたいのか。などイベントでは語られない先生方のその”想い”を取材します。

 慣れないインタビュー記事ですが、全力でぶつかります!いざ出陣!
※本取材では感染症対策を徹底した上で、写真撮影時のみマスクを外しております。

目次

  • 第1部:患者教育の重要性 オーラルフィジシャンを目指したきっかけ
  • 第2部:予防歯科と自治体との連携
  • 第3部:学校教育と予防歯科
  • 第4部:今の若手歯科医師に伝えたいこと、これから取り組みたい予防歯科について

<第1部> 患者教育の重要性 オーラルフィジシャンを目指したきっかけ

(筆者)
本日は取材を引き受けて下さりありがとうございます。まずはどのような経緯で予防型歯科医院、オーラルフィジシャンを目指すようになったのかお伺いさせてください。

患者の口腔内の現実に衝撃を受け、保険診療中心の医院から予防型歯科医院へ

早乙女先生(以下、早乙女)
 私は大学を卒業して口腔外科を9年取り組み、開業しました。当時の自分は一般歯科の臨床経験が無かったものの、口腔崩壊を起こしている患者が多く衝撃的でした。
いくら臨床の経験が無いとはいえ、不良なクラウン、口腔状況を見るとこのままで良いのかと思い、口腔外科のみではなく、歯内療法や歯周病の学び直しが必要と感じ、多くの研修、勉強会、セミナーに参加しました。でも、当時から主流であった保険診療が中心の経営スタイルだと、より多くの患者を手早く診療していく必要があり、どうしてもそれが自分の中で納得いきませんでした。
きちんとした治療を学びつつも、当時から「予防が大事だよね」という風潮があり、患者利益のためには自院でも新たに何か取り入れないと。と考えておりました。

 その折、熊谷先生(山形県酒田市で開院している予防歯科の第一人者)の講演に参加された友人から非常に良い講演だったと聞いて、予防を取り入れるのであれば一番良い先生に聞きに行こうと思いました。当時は私より衛生士の方が期待を持って参加しましたけどね(笑)

 講演を聞く前には歯周病の治療は確立できていたと思っていましたが、熊谷先生の話を聞いて、MTMが実践できれば自分のやりたいことができるのではないかと考え、実践しようと思いました。
※MTMとはこちら


(筆者)
熊谷先生の講演を聞いた歯科衛生士の反応はどうでしたか?

(早乙女)
 セミナーに期待もあり、反応は良かったが最終的には辞めました。なぜならMTM導入時の負荷ではなく実践中の負荷が高かったようでして。7,8年目の中堅の歯科衛生士が辞めてしまったが、当時2年目の歯科衛生士が中心となって今の医院の仕組みを作ってくれた。そこから更に現在、核となってくれている歯科衛生士が入ってきてくれて診療を行っています。

 セミナー受講前から歯周病の診療システムは作ってきたつもりで、サリバテストや検査を入れていくことは今まで行っていた歯周病治療と同じですが、予防歯科への心理的な落としこみや医療哲学を考えることが最初のころは中々、私もスタッフも苦戦しましたね。途中で挫けそうになりましたが、試行錯誤しながら今に至ります。

失った歯をインプラントで補うことばかりを考えていることが、間違いだったと熊谷先生に気づかされた

柴田先生(以下、柴田)
私は大学院生だった時、父は余命いくばくもない状態になって、父の夢が自分の息子が開業することだったので、すぐに開業しましたね。臨床の現場での経験が少なかったので、当時は患者さんの期待に応えることができなかったと感じておりました。そんな状態でしたので、とにかく、いろんな研修会に参加しました。 金曜日の夜に東京へ向かい、日曜日の夜に秋田へ帰る。という生活を月3回くらい行っていました。しばらくして、いろいろできるようになって、理想ってなんだろう?と考えるようになりました。

 ある日、熊谷先生のメインテナンスルネッサンスという講演のチラシに惹きつけられて、受講しました。スタッフと共に受講し、他にも多くの受講者がいる講演でしたが、なぜか自分に話しかけられているような感覚がありました。隣にいたスタッフに聞いてみても、「私も自分に話されているように聞こえます」と話し合っていました。

 そんな不思議なこともあり、翌年のオーラルフィジシャンの講習会に参加しました。その時に一番印象に残ったことが歯科疾患実態調査のデータです。熊谷先生が「年を取るにつれて、だんだん歯が無くなっている実態がある。患者さんは歯医者さんに通っているのに、それでも歯が無くなっている。日本の歯科医療は患者さんの歯が無くなっていく現状に全く貢献していないじゃないか」と話されていたことが心に残りました。

 自分はこれまでインプラントのことを中心に考えていましたが、それは患者さんが歯を失った後のことばかり考えていたことに気づき、本当に目から鱗でした。もちろん歯をなくさないようにと考えていましたが、自分がどれほど本気で考えていたか疑問を持ち、改めてしっかり考えなおす必要があると私の中でパラダイムシフトが起きたことがオーラルフィジシャンになろうとしたきっかけです。


(筆者)
 予防歯科医院を目指すための改革には院内全員の変化が必要だったのではないかと思います。オーラルフィジシャンを目指し、実践する過程において、医院内でしっかりと一枚岩となって進められたのでしょうか?あるいはスタッフとの温度差はあったのでしょうか?

非常に重要なことだと理解はしてもらえるが、中々医院も患者もすぐには変わらない事に悩みました

(早乙女)
 歯科ではこういう治療を医師も歯科衛生士もスタッフもみんなやりたいと思っている。この考えを嫌だという人はいない。ただ、そこの責任と診療の質の担保をするとすごく大変な取り組みであると感じていたのかもしれない。

 また診療だけが歯科衛生士の仕事じゃなく、検査の結果をきちんと管理することや、院内の教育も必要で、そういう新たな取り組みの面から心が折れる歯科衛生士もいなくはないのかなと思う。そこをフォローするのが私の役割ですが、中々うまく行かず、きつい言葉をかけてしまうことも過去は有りました。


(筆者)
 診療の質を良くするために医院側の技術、心構えは重要と思います。その一方、来院される患者さんの意識により診療の成果が変わることはありますか?

(早乙女)
 私が感じるのは生活習慣を顧みないような人たちは申し訳ないが、いくら言っても変わらないと考えており、その人たちを対象にするより、ある程度こちらの想いを理解してくれる人達にしっかりと教える方が重要だと思います。

 今までの常識が変わった人たちが増えることで、世の中の常識が変わっていき、それが今まで響かなかった人たちを変えることができるのではないかと思っています。

 理解はしていても中々実行できない人も事実いますね。

 患者さんの、モチベーションが上がって、きちんとメインテナンス、自分のセルフケアができるようになったとしても、いつの間にか忘れる、モチベーションが下がった時に、どうやって私や歯科衛生士がフォローしていけばいいか。生活のイベントでも影響を受けるが、そうでなくてもモチベーションは日々上下しているので、いつの間にか「ま、いっか」と思ってしまう気持ちを我々がフォローする必要があると思います。

スタッフ全員で同じ光景を見たこと、私自身が覚悟を決めたことがターニングポイントでした

(柴田)
 質問の冒頭に医院の一枚岩という話があったが、私の医院ではラッキーなことに、オーラルフィジシャン育成プログラムに初めて参加した時に、熊谷先生から「次のセミナーにはスタッフ全員でおいで」と声をかけて頂いた。
 それで当日、スタッフ全員でイベントに参加して、その時に日吉歯科診療所の歯科衛生士の方や様々な発表を聞いて、歯科衛生士のみんなが「あんな歯科衛生士になりたい。ああいう医院を目指したい」と思ってくれた。当時新人だった内気な歯科衛生士が、このセミナーを聞いてテンションが上がって、宿泊先で他では見ないくらい、とてもはしゃいでいたらしいです。そのくらいスタッフ間でも盛り上がりました。私だけや少数のスタッフであればきっとスタッフ間で温度差は生まれていたので、大きなターニングポイントだと思います。

 ただ実践するにあたり、ハードルがあって、患者全員にリスク検査をやると決めて、小児では100%、成人でも100%近くやってるかな。このように徹底して実施するようにしましたが、患者がどんどん減っていって、午後の診療で患者が1人という日もあった。それでスタッフも動揺して、院内ミーティングでも「先生、志が高いのはいいけれど、現実見ましょうよ」とさんざん言われました。希望者のみにやってもいいんじゃないかという意見も多かった。

 でも過去に似たような取り組みをしており、その当時は検査の実施を患者意思で決めるというスタイルにしていました。その時は、患者さんに「こういう検査があるんですよ」と紹介しても「いや。結構です」と断れてしまうことが多く、みんなもめげてしまい、尻すぼみになってしまったことがある。 そのことが頭によぎり、今回は全員検査をする!とスタッフに伝えました。内心ではドキドキしていましたけどね。笑

 当時は苦しい状況でしたが、患者さんはだれ一人として歯を失いたいと思う人はいないし、早く歯を失って入れ歯になりたいと思う人はいないわけで、その気持ちを引き出せていない。この思いは患者さん全員が同じく持っているはずだ。と考えていました。 だから新患が来ると1時間くらい徹底的にいろんな話を伝え、聞いてもらい、段々受け入れてもらえるようになりました。

 最初はリスク検査に対し、「その検査はいくら?」と金額だけで判断され、必要性を疑われたこともありました。でも、最近ではリスク検査ができると聞いて来院してくれる方が増えてきたので一つのハードルの乗り越え方だったと思います。

 もう一つは医院の移転を決めたことですね。実は今までの診療室が良くないと思っていました。それは、患者さんにきちんと話が伝わる診療環境にしたい。何より、大きな部屋をカーテンで仕切っているだけで、隣で治療している患者さんの粉塵が他の患者さんの口腔内に入ってしまう。そんな診療室は清潔な診療室とは言い難いと思い、48歳の時に移転を決めました。

 元の医院の借り入れもまだ残っているような状態で周りにもかなり心配もされました。本当に悩み、日々眠れない夜が続きました。 最終的には何かアクションを起こして失敗し後悔するにしても、変わらない状態でそのことを最期に悔いることもあり得ると思うと結局はやってみたらいいんじゃない。と思って移転を決めました。実は本当に覚悟が決まったのは、新医院の基礎工事が実際に始まった時でしたけどね。笑

 今思うと、リスク検査を必須にすると決めたこと、医院を移転して退路を断ち、覚悟を決めたことが良かったと思う。それが無ければ今どうなっているかわからないですね。中でも、自分を追い込んだところが大きかったのかもしれません。逃げたくなる気持ちもどうしても出てきますからね。理屈がどうとかよりも覚悟の方が大事かなと、今振り返ると思います。

(早乙女)
 私も50歳過ぎで予防フロアを増築し、60歳でも再度増築しましたが、私は何とかなるんじゃないって思ってやっちゃいましたね。笑
 たまたま私の周りに企業を営んでいらっしゃる方が多く、「やってみれば何とかなる」という考えの方が多かったので、私も釣られてそう思ったのかもしれませんが。


<第2部> 予防歯科と自治体との連携

(筆者)
 柴田先生が所属されている湯沢市雄勝郡歯科医師会(以下、歯科医師会)で先生が会長をされている期間に自治体、地域と密に連携して予防歯科の浸透にむけた活動をされていると伺っております。これまでどのような活動をされたかお聞かせいただけないでしょうか。

組織のトップの方の考えが予防に変われば、その組織全体が変わるのだと実感しました

(柴田)
 歯科医師会では私が会長を任命される以前からずっと、検診事業を地域に、そして学校に対し実施してきておりました。ただ、基本的には行政の現場担当者とだけやり取りをさせていただいておりました。私が会長をさせて頂いていた時に、ものは試しからと思い、一度市長や町長の方に打合せにご参加いただけないか。とお願いしてみると意外とすんなり、お越しいただく機会を頂戴することになりました。

 その場では普段の打合せに加え、歯の重要性、予防、メインテナンスの必要性を啓発するプレゼンをさせて頂きました。参加された方々の反応もよく、その後は各自治体の首長にも参加していただき毎年打合せ会を開催することになりました。

 そういった活動を経ているうちに、いつの会だか、市長が色々な業種の方が集まる場で「歯って大事だよね」とお話しくださったことがありまして、その時に啓発の成果、効果があったのかなと感じました。やはりトップの方が歯のことを考える。その機会を作れたことが後々の取り組みに繋がったのではないかと思います。

 このようにトップの方を巻き込んだ活動が一つ実を結んだなと思ったことが、3,4年前の町の広報紙に予防歯科のことを取り上げてくれた時ですね。私たちから自治体に予防歯科のためにこんなことを掲載してくださいと依頼したわけではなく、職員から、予防歯科について、こんなことを掲載したいのですが参考資料はありませんか。と問い合わせを受けたときに行政、自治体の大きな変化を感じることができました。


対立して得られるものは無い。根底の想いは同じなので、同じ方向を向きそこを目掛けてそれぞれが思いっきりやりました

(筆者)
 歯科医師会の中にはいろんなお考えの先生がいらっしゃり、診療スタイルも異なると思いますが、組織的な活動をされるうえでどのようなことを意識して進めましたか?

(柴田)
 確かに会の性質上、色んな考え方の方が集まっていますが、会の先生達みんな仲が良く、熱心な方々が集まっています。今は歯と健康のことがより注目されるようになり、歯科が健康の役に立ったら良いよね。と先生もみなさん口をそろえて仰っています。

 すごくラッキーだったのが、私の所属している歯科医師会は歴代の会長さんや先輩の先生方が、「みんなの和が大事なんだ」とずっと繰り返しおっしゃられていたので、仲の良い会であることも大きかったですね。

 みんなの思いが同じところは思いっきりやり、個々の先生で考えが違う範囲は先生ごとの取り組みを進めてもらうようにお互いの価値観を擦り合わせて進めるようにしました。結局、対立しても得るものがないので、一歩でも二歩でも前に進むことが大切だと思いますので、私のやりたいことを100%押し付けるのではなく、皆さんがこれなら良いですよ。と言ってくださるようにして活動を進めてきました。


(筆者)
 確かに組織として行うためには皆さんからの同意、共感は大事ですよね。柴田先生が歯科医師会の皆さんと一緒に活動を進められるにあたり、ここだけは譲らなかったという思いはございますか?

(柴田)
 予防歯科のこともありますが、歯と口腔の健康というのは、我々がより良く生きていくためにはすごく重要なことであるし、そこに対し私たちは本来すごく貢献できるはず。しかしながら現時点では最大限に貢献できているとは思えないし、これからだと考えています。ただ、どの先生もこの話をさせてもらった時にすごく納得、共感してくださるし、この気持ちを私は曲げたり、変えたりしたことはありません。

 私の医院内でもそうですが、スタッフに対していわゆるマイクロマネジメントは実施しておらず、おおよその方向性だけ院内スタッフ全員で共有し、それを実現するための方法は各自に任せるスタンスがそのまま地域への活動にも活かされていると思います。


<第3部> 学校教育と予防歯科

(筆者)
 早乙女先生からは事前に、学校での指導をされているとお伺いしております。そもそも校医としての活動を始めたきっかけ、その取り組み、気づきについて教えていただいてもよろしいでしょうか。

生徒は教えれば学んでくれる。何を教えるかが大切であり、ハウツーではなく、“なぜ”自分の歯を自分で守るのかを教えるべきだと気づきました。

(早乙女)
 学校歯科医師はそもそもやらないといけない仕事ですので、学校の準職員として学校歯科医師は口腔の健康を守るための生活指導をする必要があります。過去は一般的に検診をやっていれば良かったという時代でしたが、校医として検診事業に携わるため、検診の他、ブラッシング指導くらいはやっておこうかなというレベルの取り組みがスタートでした。

 当時は私もオーラルフィジシャンではなかったし、予防歯科という概念も持っていないころでしたが、ブラッシングが大事だということは分かっていたので、小学校を対象に月1回の指導を行い、およそ1年で全クラスが1度ずつ回れるようにしていました。

 その後、たまたまかもしれませんが、私が指導していた学校が日本学校歯科医会の指定校に推薦され活動研究の対象になりました。10年くらいはブラッシング指導を中心にしていましたが、オーラルフィジシャンになった2006年くらいから啓発活動にも力を入れ始めましたね。

 その活動を個人的にはきちんとやった気ではいるのですが、学校の先生たちもしっかりと歯科のことを考えてくださり、授業の充実、指導の充実、活動の充実、地域の連携ができていたと思います。

 小学校での指導は各学年に合わせて内容は変えていました。1年生だと第1、第2永久歯が生えてくる時期なのでそこをどうやって磨けばよいか。3年生には歯肉炎について教えてみたりとか。

 その小学校で指導するようになってからしばらくたった後、異動しなくてはいけなくて、別の小学校で教えることになりました。

 そこでは前任の歯科医師が熱心な先生で、その方は町の役所の方に働きかけ、生徒のフッ素洗口に取り組まれておりました。その甲斐あって生徒のう蝕は少なかった。でも残念なことに染め出しをすると口の中が真っ赤になるんですね。フッ素でむし歯予防はできても歯肉炎等のトラブルはあるわけで、改めて啓発、指導を始めました。

 1時間の授業の中でしっかりとブラッシングの指導を行うとしっかりと磨けるようになるみたいなので、歯科衛生士と相談し、これはテクニックを教えることが重要ではない。ハウツーを教えるだけじゃなくてなぜ磨くことが必要かを教えるようにしました。

 今はブラッシング指導も少しは行っていますが、歯科衛生士が一生懸命に各学年に合わせたテーマを考え教育的な内容を指導しています。


生徒への教育の課題は、成長するにつれ、継続した通院が途切れてしまうこと。そこに対する工夫を悩みながら実施しています。

(筆者)
 小学生の時に教えた生徒が中学生、高校生になるにつれて口腔ケアがいい加減になることや、通院から離れるようなことはありますか?

(早乙女)
 それはもうありますね。どうしても中学生からは小学生と違って色んなことが忙しくなりますから。生活の優先順位が変わることもありますし、保護者の目を離れるようになると医院から離れがちになってしまい大きな課題となっています。

 患者さんの情報を見ていると15歳から18歳の通院率が本当に谷間となっています。もちろん通院してくれる生徒もいてカリエスフリーを維持できているのですが、そうでない生徒をどう通院してもらうかは今の悩みです。


(筆者)
 何か通院し続ける生徒に共通の特徴はありますか?

(早乙女)
 一つは幼少期から継続してきてくれている子です。両親、特にお母さんが子供と一緒に通院してくれることが多く、そういう子は習慣化されしっかりと来てくれます。後は素直な子ですかね。

(柴田)
 私の医院でも子供の通院を受け入れる時は、必ず親も一緒に口腔内検査を受けてもらうことを必須としています。そうしないと新患として受け入れないくらいルールを徹底させてもらっています。

(早乙女)
 私のところも同じです。柴田先生のところから勉強したかな。

(柴田)
 今の課題に対する1つの答えになるかもしれないが、家族ぐるみで通院してもらうことが途中でドロップアウトすることへの対策になると思います。
その例として、私の医院に通うお子さんの中には小学校を卒業するタイミングで、「小さい頃から私の歯を守るために一緒に通院して頑張ってくれたお母さんやお父さん、そして歯科衛生士さんに感謝しています」などの感想を言ってくれる生徒もいる。そういう人は今後もドロップアウトしないですよね。

 最近では私の医院の新たな取り組みとして、小学校を卒業するタイミングでカリエスフリーだった生徒を表彰する場をオンラインで設けました。その時にその子が担当の歯科衛生士にお礼を言ってくれたんですね。私も感じるものがありましたが、それ以上に、歯科衛生士の方が画面越しに見ても分かるくらい、ウルウルしてましたね。

 何が言いたいかというと、その子が小さい頃から専任の歯科衛生士として見てきたわけじゃないですか。その長い付き合いで絆というか結びつきができて、それが大きくなっても継続できる一つの要因じゃないでしょうか。
※柴田歯科医院では原則1人の患者に対し1人の専任の歯科衛生士が継続してメインテナンスを担当することにされているそうです。

 歯科衛生士の担当制、完全個室という環境、患者の気持ちを引き出す指導などは色んなところに影響を与えていて、質の高い診療を提供することで、本当にメインテナンスの患者さんが増えていくんですよ。

 普通の医院だとクリーニングは簡単に隣と仕切られたような部屋にあるチェアでするじゃないですか。でも完全個室で専任の担当歯科衛生士がいるだけでメインテナンスがとても大切なものなのだと何も言わずとも伝わるわけじゃないですか。

 そこで今まで申し訳程度にクリーニングを受けるだけだった患者が、「メインテナンスってこんなもなんだな」と思わずに、こちらの本気が伝わるのではないかと思っています。

(早乙女)
 患者教育という観点でコミュニケーションがきちんと取れるということは本当に大切で、完全個室という環境はそれに大きく貢献してますよね。


<第4部> 今の若手歯科医師に伝えたいこと、これから取り組みたい予防歯科について

(筆者)
 改めて明日のPreOP仙台に向けて若手の先生に伝えたいことについてお伺いさせてください。

人生100年時代を生き切る世界で予防歯科の力で若い皆さんと共に明るい未来を描きたい

(柴田)
 いろんな厳しい環境、コロナ禍、人口減少があり、そういう中で、今の歯学部の学生は聞くところによると悲観的なことがよく言われていると聞いています。自分がこのオーラルフィジシャンという診療スタイルになってからはすごくやりがいもあるし、医院の経営のところでもうまくいっているし、いろんな意味で何も悲観することはないのではないかということを伝えたいと思っています。

 先日のJOFの創立記念に江崎先生から教えていただいた、人生100年時代を生き切るために予防重視の歯科医療がそこに貢献できると思っています。ただ、残念ながら日本の歯科医療の主流まで、スタンダードまでになっていない。

 これが今後スタンダードになっていくことができれば本当に日本中に貢献できるのではないかなと思うので、その入り口として、みんな若い医療者なんだから、君たちの未来も明るいけれど日本の未来も明るいんだとそういう事を伝えられればいいかなと思っています。

まっとうな歯科医療を貫く。その結果、KEEP28も夢じゃないと皆さんと実現したい。

(早乙女)
 考え方は私も同じですが、PreOPに参加する若い方ですから、歯科医院を開業していても比較的に若い人あるいは卒業したての若い人たちではないかと思います。今、厳しい時代だと学校でも言われて後ろ向きの人もいるかもしれませんが、大多数の方はおそらく、いい診療がしたい、いい治療がしたい、歯科医師として輝きたい。とやっぱり前向きな方が多いのではないかと思います。

 しっかりとした診療をされる方がたくさんいらっしゃると思います。でも、そこからいつの間にか大多数の方は1日にたくさんの患者さんを診療することで収入や経営の帳尻を合わせていく。そのような方向へ流れてしまうのではないかと思うんですね。

 そこを私たちと一緒にオーラルフィジシャンとしてそのMTMを軸に医療をしっかりとやっていくことで、胸を張れるようにまっとうな歯科医院として貫くことができる。その結果として患者さんを幸せにできる。
場合によってはKeep28も夢じゃない。そういう明るい未来を描きたいと思いましたので、若い皆さんにそんな診療スタイルをやりませんか。と伝えたいです。


(筆者)
 今後、予防歯科を更に広めていくためどのようなことをお考えでしょうか?

(柴田)
 今は家族で医院を経営していますが、やっぱり親子ならではの難しさもありますね。伝える側も受け取る側も。

 実はうちの娘は子供のころから絶対歯医者にならないと宣言してましたよ。それは何でと母から聞いてもらったところ、私と妻は大学の同期なもんで遠慮がなく、ライバル意識もあり、夕食時でもその日や次の日の診療の話をするんですね。そうするとお互いの意見がぶつかるときにお互い引かないんですね。気がつけば夜中になったりしていて。
実はそういう場面を子供が見ていたようで、「だって歯の話になると喧嘩するもん」って言ったらしいです。

 ただ、確かちょうど移転を行った時期、高校生2年くらいのころに歯学部に行きたいと言い始めて、 その時にはたぶん、私がやっていることを少し理解してくれたのかもしれない。 なんか自分の父親が一生懸命やっているよと感じてくれてたのかもしれませんが、まず歯科に行きたいと言って、オーラルフィジシャンとしての歯科医師の在り方をぼんやりと理解してくれたようでした。

 熊谷先生は昔、「今までの歯科医院は1代で終わってしまう。親がやってきていたスタイルを引き継がず、今までのことはその代で終わってしまい、引き継がれていない」とおっしゃられていました。私自身は治療中心の診療スタイルから、オーラルフィジシャンとしてのスタイルに変えました。今一緒に働いている娘は基本的には診療の方向性の理解はしてくれているようで、そういう面では継承してくれてありがたいなと思います。

 熊谷先生は先ほどの話に加えて、「オーラルフィジシャンになって初代でここまでできた。2代目でもさらに積み上げた。3代目になって初代でできなかったことができるんだ」ともおっしゃられており、私もそんな医院になってほしいと思います。
私だけでできなかったことを、今までを土台にまた新たな花を咲かせてほしいと思いますね。

(早乙女)
 最近思っていることは100年企業があるじゃないですか。歯科医院もそうならないと一人の患者が0歳から100歳まで1人で見ることは現実的にはできないと考えています。

 その一つの医院にかかるかどうかは別物かもしれないが、1つの医院で0歳から100歳までカリエスフリーを達成できれば、めちゃくちゃすごいじゃないですか。でもそれをやるには私だけではダメで、200年、300年企業を目指さないとだめ。それができればいいなとおぼろげながら考えることが増えました。

 それを達成するにはどうしたらよいか。それをこれからのワークとしていきたいです。100年企業はどういうことをやっているのか、なんでそうなるのか。

 うちも義理の息子を含め3人の子供が歯科医で一緒に仕事をしているが、どうやって伝えたらいいか。継承するって結構難しいなぁと日々考えています。

(柴田)
 日本の企業は長く続くじゃないですか、きっと秘密とか秘訣とかが潜んでるんじゃないかと思っています。

(早乙女)
 変えるものと変えないものがあるんじゃないかと。変えちゃいけないものは変えちゃいけないけど、いろんなものを柔軟に変えるところは変えるということかなって思うことがあります。

(柴田)
 親子予防を実践していますが、その子供がどうなったかは私が見ることはできないので、次の人、更にその次の人へやっぱりつながっていかないとと思います。


<後日談> PreOP仙台を終えての感想と歯科教育における醍醐味とは?

 取材日の翌日、PreOP仙台でご講演されたお二方に、セミナーを終えた感想と歯科現場における「教育」の醍醐味についてお伺いしました。

(柴田)
 オンラインセミナーはここ数年やっていたが、久しぶりの対面形式で実施することができ、聞いてくださる方の温度感が分かり、良いなぁと思いました。

 私が歯科教育に関わって良かったなという時は、患者さんに私たちの話を聞いてもらい、「あぁそういうことって大事ですよね」とか、「今までの自分の考え方、捉え方からこうした方がいいんだ」と気づかれる瞬間に立ち会う場面ですね。

 その時はうれしいし、やりがいを感じます。私はインプラントもやっており、今まで噛めなかった方が、噛めるようになる。ということにも、やりがいや、達成感を感じます。ただ、それとはまったく別に、人の人生をちょっと変えることができたかもしれない。という瞬間に立ち会えたと思えることが、この予防歯科の醍醐味じゃないですかね。
患者さんの頭の中が変わったと、表情や雰囲気から目に見えて分かる。そんな瞬間が私の一番好きな場面ですね。

(早乙女)
 自分の伝えたいことは何とか伝えられたかな。今後オーラルフィジシャンを目指すかもしれない若い先生から、質問をたくさんいただき、話を聞いてくださったとのだと実感があった。ここから多くの方と一緒にオーラルフィジシャンとして歩んでいきたいですね。

 教育において面白いことは患者さんの変化もそうですが、スタッフ教育も感動することが多いですね。特に歯科衛生士はいろんなタイプの方が新たに入ってきますから、中にはこの歯科衛生士は本当にやっていけるのだろうか。と思うときもあります。そういう歯科衛生士がマルメ大学の研修に参加して、本当に目の色を変えて帰ってきた時には驚きました。その研修をきっかけとしてどんどん伸びてきて、今は中堅としてしっかりやってくれている。

 私から見て、歯科衛生士が育ってきていることを見れるのは本当に嬉しくて、それこそ涙ちょちょぎれるくらいですね。いつも厳しいことばっかり言っているが年取ったせいで、こういった成長が教育をきちんと行って良かったなと思う瞬間です。


編集後記

 お二方の取材、翌日のPreOP仙台に参加させて頂き、予防歯科、MTMの重要性に触れながら、いかに継続した取り組みができるか。それが、医院も患者にも必要なんだと感じることができました。

 昨今、先行きが不透明だ。VUCA時代だ。と言われておりますが、かの政宗公が最期に言い残した「曇りなき 心の月を 先立てて 浮世の闇を 照らしてぞ行く」の言葉となぞらえると、口腔と人にきちんと向き合い、明るい未来を目指していく。そんな想いを持つ先生方と一緒に今までのご縁も含め1企業人として、1市民として変わらず活動を続けたいと思いました。 柴田先生、早乙女先生、お忙しい中、取材を引き受けていただきありがとうございました!

(後日談の後日談)
お二人ゆかりの名産品を取り寄せて記事執筆をしました。世が明るくなった時にはぜひご一緒させてください!

2022年6月
M.ずんだ行

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