MIH（エム・アイ・エイチ）のこと

　むし歯の予防方法が進むにつれ、昔のように永久歯が生えると同時にむし歯になるというようなことはほとんどなくなりました。しかし、約15％、つまり５、6人に1人くらいの人は、六歳臼歯（第一大臼歯）と前歯の表面が非常にもろく欠けやすい状態で生えてきて、白く濁っていたり、黄色や茶色になっていたり、ザラザラしていたりします。普通のエナメル質と違って、しっかり予防をしていてもむし歯になりやすく、また、知覚過敏を生じて痛い思いをすることもあり、とても厄介です。

　専門家の間ではこれをMIH（エム・アイ・エイチ）と呼んでいます。「大臼歯（M）と切歯（I）が低形成（H）になっている状態」という意味です。近年、特に全体のむし歯が少なくなったことによって、MIHが目立つようになりました。

　MIHの原因ははっきりとは解明されていません。今のところ、乳児期の高熱や感染症、出産時の合併症、または環境中の物質の影響など、さまざまな可能性が考えられています。つまり、親御さんの育て方や子どもさん自身の生活習慣が直接の原因ではないことが多いです。

　原因がよくわかっていないことでMIHをどう予防したらよいのかもはっきりと言えないもどかしさがあります。その分、できるだけ早く気づくことがとても大切になりますので、小さい頃からの歯の定期検診は非常に重要です。

　MIHの歯はとてもデリケートなので、放っておくとどんどん削れてしまいます。前歯は見た目を損ない、奥歯がMIHだった場合は噛み合わせや歯並びに影響を及ぼすこともあります。

　では、MIHが疑われるとき、ご家庭ではどのようにケアすればいいのでしょうか？まず大切なのは、フッ化物入りの歯磨き剤を使った歯磨きです。フッ化物には歯を強くする働きがあるので、MIHの歯をむし歯や知覚過敏から守るために積極的に取り入れていきましょう。MIHの歯は表面が弱いので、硬い歯ブラシでゴシゴシこすったりせず、やわらかめの歯ブラシで優しく丁寧な歯磨きをしてください。フッ化物以外にもMIHに有効であると言われているのは、牛乳由来成分のカゼインホスホペプチド（CPP‐ACP）やエナメル質の本体であるハイドロキシアパタイトで、どちらも歯磨き剤やペーストに入ったものが手に入ります。フッ化物入りの歯磨き剤と合わせて使ってみてください。

　歯科医院で専門家が行うケアは、まずMIHをできるだけ早く診断し、似たような病気や状態と区別します。そして、メインテナンス来院の間隔はできるだけ短くして管理します。歯科医院でもフッ化物のジェルを定期的に塗布しますが、歯の表面がもろくなっている部分に対しての処置としては、フッ化物が入ったコーティング材で表面を保護したり、必要に応じてかぶせ物をすることで、歯を守る処置が行われます。お口を開けても見えない大臼歯には、フッ化ジアンミン銀という強力なお薬をつけることもあるでしょう。これは歯の色が黒くなってしまうので、前歯には使いません。重症な場合は、計画的に抜歯をすることもあります。第一大臼歯の後ろに生えてくる第二大臼歯が生える前だと、第一大臼歯を抜いた後に、その隙間を埋めるように第二大臼歯が前の方に寄って生えてくれることをねらって、抜歯による弊害を最小にします。

　MIHは厄介ですが、ご家庭と歯科医院が二人三脚で対抗していきましょう！

画像説明

MIHに有効だとされているカゼインホスホペプチド（CPP‐ACP）のペースト（株式会社GC）

参考文献

• 西真紀子. MIH（第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全）にフッ化ジアンミン銀 | デンタルライフデザイン
  https://d.dental-plaza.com/archives/23449


• 西真紀子. MIH：第一大臼歯と切歯に限局して生じるエナメル質形成不全 | デンタルライフデザイン
  https://d.dental-plaza.com/archives/23190

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