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水は最高の飲み物

今の世の中には様々な飲み物が溢れかえっています。水の他にも緑茶、紅茶、コーヒー、清涼飲料、ジュースや果汁入り飲料、スポーツドリンクなどなど。そして何となく色がついていて、甘みやフレーバーのある嗜好飲料を選びがちではないでしょうか? しかし、私たちの歯のことを考えると、喉の渇きをいやすためには無色透明無味無臭の水が最も優れた飲み物であることを強調したいです[1]。

まず、糖類の入った飲料をチョビチョビと頻回に摂ることは、とても危険です。なぜなら、その度に歯の周りにある一部のバイキンが、その飲み物を喜々として取り込み、排泄物として酸を出し、その酸のおかげで歯の周りが酸性になります。唾液がその酸を中和してくれるものの、元の中性の状態に戻るまで時間がかかるので、それまでの間に糖類の入った飲み物を再び口に含むと、また歯の周りが酸性に。これを繰り返していると、いつまで経ってもお口の中が中性に戻りません。

酸性の環境が続くと、歯の表面が少しずつ溶けていき(脱灰)、唾液の中にある成分による補充(再石灰化)が追いつかなくなります。そのうち目に見える穴が空いてしまいます。これが「むし歯」です。

驚いたことに、甘い味がほとんどしないような糖濃度が1%未満の飲み物でも、この脱灰が起こります[2]。1%でもバイキンにとっては十分過ぎるほどの糖分を得られているのですね。スポーツドリンクなどを薄めてチョビチョビ飲めばむし歯にならないというアドバイスが専門家から行われることがありますが、このアドバイスは鵜呑みにしない方が良いでしょう。

また、哺乳瓶やストローマグに糖類の入った飲料を入れて、乳幼児にチョビチョビと飲ませることも決してしないでください。赤ちゃんの喉が渇かないようにと配慮されるのなら、水を! 乳母車に乗った赤ちゃんが、色のついた飲み物の入った哺乳瓶を口に咥えている光景を見ると、歯科医師としては心から悲しくなります。この中に水を入れるという選択肢はそんなにみずぼらしく見えるでしょうか。色がついているからといって決して豊かなわけではないのですが。

それから、健康志向の高まりによってよく消費されるようになった果汁ジュースや、酢の入った酸っぱい飲み物も要注意です。バイキンが排出する酸以外に、この飲み物自体の酸性度によって、歯の表面が広範囲に溶けてしまいます。この状態は「酸蝕症」と呼ばれています。

水ならば、いつ飲んでも、どんな飲み方をしても安心です。喉がカラカラに乾いた時に飲むコップ一杯の水の美味しさを思い出してください。あまりにも多くの嗜好飲料が手に入るために、水の美味しさを忘れていませんか? 私たちの体の6割は水分でできているそうです。その2%でも失うとめまいや吐き気がするほど大切な水分ですが[3]、嗜好飲料で補うと、簡単にエネルギーの過剰摂取になってしまいますから[4]、全身の健康のためにも水を選択してください。


写真説明

喉が渇いた時には水を! 歯に安全で、一番体が欲しているものです。


References


  1. Mejàre I, Modéer T, Twetman S, (翻訳)西真紀子. 最新 小児歯科 スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶ. 東京: オーラルケア; 2019.

  2. Imfeld TN. Identification of low caries risk dietary components: Karger Publishers; 1983.

  3. 公益財団法人長寿科学振興財団. 水は1日どれくらい飲めば良いか | 健康長寿ネット [cited 2022 May 15]. Available from: https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shokuhin-seibun/water.html

  4. 五味 郁子. 嗜好飲料(アルコール飲料を除く) | e-ヘルスネット(厚生労働省) [cited 2022 May 15]. Available from: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-03-014.html

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得