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フッ化物のパワフルなむし歯予防効果とは?

 フッ化物のむし歯予防効果は非常に強力です。その効果についての研究が始まったのは20世紀初頭でした。最初はアメリカのコロラド州で歯に白や茶色の斑点や筋(斑状歯)が多いこととむし歯がとても少ないことから、何か地域的に特別な原因があると疑われました。それが飲料水が原因ではないかと考えられ、その地域の飲料水の分析が始まり、最終的にフッ化物の濃度が異常に高いことが発見されたのです。

 その後のフッ化物のむし歯予防効果についての研究の発展は目覚しく、飲料水に1ppmのフッ化物であれば、重度の斑状歯を抑えながらむし歯予防効果を発揮できることが分かりました。むし歯予防のために水道水にフッ化物を添加すること(フロリデーション)は、このような歴史的背景に基づいて行われました。

 しかし、フロリデーションよりももっと効率的にむし歯予防をする方法がないかと、他の方法も編み出されていきます。飲料水と異なり、フッ化物は体内に取り込む必要はなく、歯に直接作用することが望まれます。そのため、歯磨きペーストに6歳以上には1,450ppm、6歳未満には1,000ppmのフッ化物を入れる方法が主流になりました。現在、その効果と安全性が十分に証明されています。

 さて、そのフッ化物のむし歯予防効果の実際はどのようなものなのでしょうか。歯はむし歯の原因になる食べ物や飲み物を口にするたびに、口内のバイキンがその糖分を利用して酸を作り出します。この酸が歯のエナメル質を攻撃し、脱灰と呼ばれる現象を引き起こします。脱灰が進行すると、歯の表面からミネラルが失われ、むし歯の第一歩が始まります。フッ化物は、この脱灰を抑え、逆に歯の再石灰化を促進します。再石灰化とは、歯のエナメル質にカルシウムやリンといったミネラルが再び取り込まれる過程です。フッ化物はこれを手助けし、歯の表面を再び強くし、酸に対する抵抗力を高めてくれます。

 フッ化物は、歯のエナメル質を酸に強くする働きもあります。通常、歯はカルシウムやリンを主成分としていますが、フッ化物が作用すると「フルオロアパタイト」という非常に硬く、酸に耐性のある物質が形成されます。このフルオロアパタイトが、むし歯の原因となる酸の攻撃から歯をしっかり守ります。フッ化物を使うことで、歯の表面がより強く、より耐久性のある状態になるのです。

 その他に、フッ化物のバイキンに対する抑制効果もあります

 これらの作用を上手く活用するために、フッ化物入り歯磨きペーストの使い方も工夫してみましょう。その秘訣は1日2回、1回につき2分間、(6歳以上には)2cmのフッ化物入り歯磨きペーストを使って、その後2時間はフッ化物を洗い流さないように飲食を控えるというテクニック(「2+2+2+2テクニック」)です。下のコラム記事も合わせてご覧ください!



写真説明

歯磨きペーストにフッ化物が入っていることを確認しましょう!
(イラスト提供:富士通Japan株式会社 Fujitsu予防歯科クラウドサービス「デカゴンC」資料)


参考文献


  1. The Story of Fluoridation | National Institute of Dental and Craniofacial Research

  2. Ten Cate JM, Buzalaf MAR. Fluoride Mode of Action: Once There Was an Observant Dentist . . . J Dent Res. 2019 Jul;98(7):725-730.

  3. 筆者プロフィール

    Makiko NISHI

    西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
    (旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)

    1996年 大阪大学歯学部卒業
         大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
    2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
    2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
    2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
    Master of Dental Public Health (MDPH)取得
    2010年 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
    (旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
    2018年 同大学院博士課程修了 
       Doctor of Philosophy(PhD)取得