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どうして歯磨きするの?(2) ―歯周病編

前回はむし歯予防のための歯磨きの意義についてお話しました 。ポイントはフッ素を効かせることでしたね! では、歯周病予防のためにはどのような歯磨きが科学的に認められているのでしょうか?

歯周病には大きく分けて、歯肉炎と歯周炎の2種類があります。歯肉炎は歯ぐきだけの炎症で、正しく歯磨きをすれば一週間で健康に戻すことができますが、歯周炎は骨まで炎症がおよんでしまい、失われた骨は基本的に元に戻りません。

そんな歯周炎も最初は歯肉炎から始まります。ある人は歯肉炎でとどまり、ある人は歯周炎まで進んでしまいます[1]。両者の分かれ目には、遺伝的な要素が大きく関わっていますが、喫煙も深く関係しています。いずれにしても、歯肉炎の段階で、正しい口腔ケアを行って健康に戻しておきたいところです。

歯肉炎を予防したり治したりするための歯磨き方法を身につけるために、「汝の敵」を知りましょう! それは、前回にも名前が出た「バイオフィルム」(従来から「歯垢」や「プラーク」と呼ばれている白いネバネバした細菌の塊)です。歯周病予防のための歯磨きは、「バイオフィルム」との戦いです。

「バイオフィルム」は、必ず十分な水分と栄養分に面している固体の表面に存在します。特に淀んだ場所が好都合です。そう、歯は「バイオフィルム」が生育できる条件を兼ね備えているのです。「バイオフィルム」の中には何億というバイキンがウヨウヨ体を寄せ合って、ネバネバしたフィルムを作り出し、自分たちの周りにバリアを張っています。このフィルムのおかげで抗菌薬が入り込んでいけません。

また、フィルムの中では、何と、バイキンたちの互助関係が出来上がっているのです。あるバイキンは他のバイキンの排泄物を栄養分にしたり、バイキンたちが列を作って運河を作り、栄養分が奥の方に流れるようにしたり[2]。。。 驚くほど私たちの社会と同じような高度な構造が成り立っています。

この「バイオフィルム」の中にとても悪さをする歯周病菌がいます。ほとんど誰の口の中にもいます。抗菌剤も効かないのに私たちはどうしたらいいのでしょうか? それが歯磨きです! 物理的な力で「バイオフィルム」の社会システムを破壊すればいいのです。

歯周病菌は空気が嫌いです。そのため空気の薄い歯と歯ぐきの溝の中を好み、体の免疫細胞と戦いながら奥へ奥へと侵入していきますので、そこに巣食う「バイオフィルム」の社会システムを破壊してしまいましょう。歯磨きの毛先を歯と歯ぐきの溝の中にキュッと入れ込んで、コショコショと毛先を細かく動かします。これで「バイオフィルム」は木っ端微塵に破壊されます。たったそれだけ、簡単です。1本1本の歯について、隅々まで丁寧に「バイオフィルム」を破壊してください。1日1回で充分です[3]。


写真説明

1997年のネパールで歯磨き指導中。
左の女の子は歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの間に入れていますね!


References


  1. Klinge B, Gustafsson A, (翻訳)西真紀子. トータルペリオドントロジー スウェーデンのすべての歯科医師・歯科衛生士が学ぶ. 東京: オーラルケア; 2017.

  2. Socransky SS. Dental biofilms: difficult therapeutic targets. Periodontol 2000. 2002;28:12-55.

  3. Maier J, Reiniger APP, Sfreddo CS, Wikesjo UM, Kantorski KZ, Moreira CHC. Effect of self-performed mechanical plaque control frequency on gingival health in subjects with a history of periodontitis: A Randomized Clinical Trial. J Clin Periodontol. 2020;47(7):834-841. Epub 2020/04/22.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得