口臭が気になる人、結構多いのではないでしょうか? 口臭にもいろいろあって、ニンニクなどの臭いのきつい食べ物・飲み物が原因となっているものから、内蔵の病気が原因となっているものや、本当は口臭がないのにあると信じている心因性のものまで様々です。口臭の8〜9割が口の中に原因があり、その中でも大半は舌にある無数のバイキンが原因だと言われています[1]。

これからお話する歯周病が原因の口臭は、本当に歯周病が原因なのか国際的にはまだ議論されているものです[1]。しかし、欧米に比べて日本においてはかなりはっきりしているのではないかという個人的な実感があります。在日外国人の約7割が、日本人の口臭に落胆した経験があるという調査結果があるそうですが[2]、おそらくこれもメインテナンスを受けている人の割合が極端に低い日本特有の歯周病の放置が原因ではないかと思っています。

コロナ禍以前、マスクをしていない人がほとんどだった満員電車の中で時折漂っていたあの臭い。それは歯周病の患者さんが持っている臭いで、歯科医療従事者には馴染みの臭いです。日本のホテルのスタッフがドライヤーを部屋に持ってきてくれた時にも、空港で壊れたスーツケースの届け出を航空会社の人が隣に座って書いてくれた時にも、百貨店の包装係の人がこちらを向いた時にも同じ臭いがしました。

上記の人たちは全員接客業のプロとして身なりが素晴らしく整っていて、アイロンの効いた白い襟から清潔感が漂っているのに、お口の中だけがドブのような淀んだ状態であると推測できます。実際、発泡スチロールの箱の中に土を入れて水で満たし、数日置いておくと同じ臭いが作れます。酸素のないところで繁殖できるバイキン(嫌気性菌)が発する臭気(揮発性硫黄化合物)です。

ハグやキスが日常の挨拶として行われている国々では、日本人に比べてメインテナンスに行く人の割合がずっと高いためか、あの臭いはほとんど感じたことがありません。ましてや接客業の人からは! 日本では挨拶で他人とスキンシップを取るほど距離が近くなることはありませんが、満員電車や接客の場面で距離が縮まります。ところが、なぜか歯周病の口臭は許容されているようです。

歯周病が原因の口臭の仕組みは、歯と歯ぐきのすき間にバイオフィルムが貯まると酸素が希薄になり、嫌気性菌にとって嬉しい環境に変わることから始まるのでしょう。するとますます嫌気性菌が繁殖し、発泡スチロールの実験と同じ状態になります。さらに歯周病の原因菌や「揮発性硫黄化合物」さえも組織を破壊して[1]、そのすき間を奥深くに広げていきます(歯周ポケット)。

この悪循環を断ち切るには、専門家によるクリーニング(PMTC)や外科処置を受けることです。そうして歯周ポケットをきれいにして、正常な深さに戻し、酸素が行き渡るようにしてあげるのです[3]。一生に一度も歯周ポケットのクリーニングをしていない人が大半という日本。淀んだ歯周ポケットに酸素を行き渡らせて嫌気性菌を退治してしまいましょう!


写真説明

スウェーデン・マルメ大学歯学部のらせん階段。
歯周病も悪循環に陥らないように!


References


  1. De Geest S, Laleman I, Teughels W, Dekeyser C, Quirynen M. Periodontal diseases as a source of halitosis: a review of the evidence and treatment approaches for dentists and dental hygienists. Periodontology 2000. 2016;71(1):213-227.

  2. 桐村 里紗. 日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学~: 光文社; 2018.

  3. Deutscher H, Derman S, Barbe A, Seemann R, Noack M. The effect of professional tooth cleaning or non‐surgical periodontal therapy on oral halitosis in patients with periodontal diseases. A systematic review. International journal of dental hygiene. 2018;16(1):36-47.

著者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得