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予防歯科の成功を担う歯科衛生士

「歯科衛生士」という職業についてご存知ですか? 英語でDental Hygienistと言うので、「ハイジニスト」とか「DH」と呼んだりします。かかりつけの「ハイジニスト」、つまり「マイ・ハイジニスト」を持っている人は、日本では宝くじに当たるくらい稀だと思いますが、長く同じ歯科衛生士にメインテナンスをしてもらえると、とても安心です。

もしかしたら、メインテナンスに通っている人の中には、毎回診てくれる「歯科衛生士」を「歯科医師」だと勘違いされているかもしれません。ここで「歯科衛生士」と「歯科医師」の違いを詳しくお話しましょう。

歯科衛生士は、お口の中をチェックして歯石を取ったり、バイオフィルム(歯垢またはプラーク) の破壊と除去をしたり、フッ素を塗ったりといったむし歯と歯周病の予防処置をします。また、歯磨きの仕方や食習慣のアドバイスなどをその患者さんごとに合わせて指導することもあります。日本の歯科衛生士の多くは、これらの仕事の他に、歯科医師による歯を削ったり、詰めたり、被せたり、抜いたりという処置の補助をします。

海外では歯科衛生士のいない国もあります。しかし、歯科衛生士がいるところでは歯科医師の補助をするのは歯科助手で、歯科衛生士の主な仕事はむし歯と歯周病の予防のための処置や指導です。歯科衛生士になるには2〜3年かかり、歯科助手は1年でなれるからです。つまり、歯科衛生士にはそれだけの専門性があります。様々な国の歯科医療モデルを調べると、歯科衛生士が歯科衛生士として尊重され、本来の仕事をしている国ほど、国民の歯が守られている印象があります。

特に予防歯科の先進国である北欧は、デンタルチーム(歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士、受付、データ管理担当者などが含まれます)という概念が早くから発達していて、歯科医師がリーダーシップを取りながら、患者さんのお口の健康のためにそれぞれの仕事に取り組みます。学生のうちから一人の患者さんをチームで担当して、そのチームワークのあり方をトレーニングします。

デンタルチームでは、例えば、歯周病が酷い患者さんで、根っこについた歯石を歯科衛生士が使う器具では取れない場合があるとします。そうなると歯科医師の出番で、歯茎を切って、根っこを見えるようにしてから歯石を取り除きます。そこで歯科医師がそのまま歯石を取れば早く済みますが、敢えてその場で歯科衛生士にバトンタッチして歯石を取ってもらいます。すると、その歯科衛生士はこれからその患者さんを長くメインテナンスする時に、歯茎の奥で根っこがどのような形をしていて、どこに歯石が付きやすいのかイメージしやすくなり、歯周病の再発をより防ぎやすくなるわけです。

歯科医師の歯を削ったり、詰めたり、被せたりという仕事は、どれだけ精密に行っても、その後、歯科衛生士がいなければ、そのうち破壊していきます。「歯医者」を「破壊者」にしないのは、歯科衛生士による予防処置と指導、そして患者さんのホームケアがあってこそなのです。


写真説明

歯科衛生士が処置をしているところを歯科医師が見ています。
デンタルチームのコンセプトが発達しているスウェーデンにて。


筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得