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タバコをやめるとお口の健康にもいい

 タバコとお口の健康には深〜い関係があります。まず、タバコは口腔がんになりやすくなります。口腔がんは手術により顔が大きく変わってしまったり、話したり食べたりすることが大変不自由になる場合があります。私がアイルランドの大学にいる時に、口腔がんに罹って大きな手術を経て、顎がなくなってしまった女性の患者さんが大学院生の授業に来て、体験談を話してくれました。50代くらいで以前は喫煙者だったそうです。「若い頃はタバコでこんながんになるなんて思ってもみなかった。昔に戻れるのならタバコは吸い始めない」と言われていました。「歯科医師の皆さん、どうか、患者さんにこの気持ちを伝えてください」と。日本の皆さんにも是非、お伝えしておきたいと思います。

 そして、もう一つは歯周病です。歯周病の成り立ちについて、こちらのページ で詳しく説明しましたので、復習がてら、もう一度読んでみてくださいね。そこにありますように、歯周病にはバイオフィルムが最も強く絡んでいるのですが、その次のリスクがタバコなのです。タバコは百害あって一利なし。ニコチンの他にも4,000種類以上もの化学物質を含む煙が歯茎に直接当たって、有害な作用(血流の低下、免疫力の低下、炎症物質の増加など)をするわけです。歯周病予防のためにも、吸われている方は禁煙を考えてみては? また未成年の人たちにはタバコを吸い始める前に、タバコは歯にも悪いんだよということを教えてあげてください。

 歯周病の治療も、禁煙した方が治療の結果が良くなります。またインプラントを入れた場合も、インプラント周囲炎を防ぐためには禁煙は必須です。もしも、歯周病の治療、インプラント、メインテナンスを受ける時に、その歯科医院で禁煙指導がされなかったり、禁煙外来を紹介されなかったら、そこを頼っていいのか疑わしいですよ。例えば、喫煙者が肺がんになった時に、禁煙させないで肺がんの治療をするでしょうか? もしそんなお医者さんがいたら、本気で肺がんを治そうとしてくれるとは思えないですね。それと同じです。

 他にも、タバコを吸っていると歯ぐきの色が黒ずんだり、口臭が酷くなったり、味覚が麻痺したりといった弊害もお口の中に生じますので、禁煙が成功した暁には本当にいろいろな良いことが起こるのです。

 ところが、歯科医師の中にもタバコをやめられない人がいます。禁煙はそう簡単なものではありませんね。そのために「喫煙は脳の病気」と表現した研究者もいました。脳の大改造をしなければ治らないのでしょう。昔、歯周病で有名なスウェーデンの教授の講演を、そのお弟子さんの日本人の教授が通訳した時のことです。講演の中で歯周病とタバコの関係があるという大切な一文の通訳を飛ばしました。後で聞くと、その日本人はヘビースモーカーでした。大切な講演の通訳に対する責任感をも奪う恐ろしい中毒性、確かに「脳の病気」です。


写真説明

スウェーデンのある高校にて、喫煙禁止エリアを示す看板。その下にはタバコの空箱が散乱!?


References


  1. Duarte PM, Nogueira CFP, Silva SM, Pannuti CM, Schey KC, Miranda TS. Impact of Smoking Cessation on Periodontal Tissues. Int Dent J. 2022 Feb;72(1):31-36. doi: 10.1016/j.identj.2021.01.016. Epub 2021 Feb 27.

  2. Zhang Y, He J, He B, Huang R, Li M. Effect of tobacco on periodontal disease and oral cancer. Tob Induc Dis. 2019 May 9;17:40. doi: 10.18332/tid/106187.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得