5,000ppmフッ化物入り歯みがきペーストの到来を待つ!
むし歯予防にフッ化物を上手に使う、特に毎日フッ化物入り歯みがきペーストを使うことが非常に効果が高いことを以前にご説明しました。
日本で市販されている歯みがきペーストのフッ化物濃度は1,500ppm未満であるべきという薬事法の規制があります。これは多くの方が安心して使える濃度ですが、海外ではむし歯のリスクが高い人のために、より強力なフッ化物濃度5,000ppmが推奨されています。フッ化物は濃度が高いほど、歯の再石灰化を促進し、むし歯の進行を抑制する力が強いため、効果的な予防手段と位置付けられているのです。どのような人が当てはまるかというと、
- 口腔衛生が不良
- 砂糖を大量かつ頻繁に摂取している
- フッ化物の利用が少ない、または全くない
- 歯の根が露出している(特に高齢者)
- 細かい動作能力が低下している
- 矯正器具や部分入れ歯を使っている
- 社会的な弱者層
- 糖尿病、パーキンソン病、リウマチなどの病気がある
日本では1,500ppmが認可されたのも2017年と、欧米諸国から約50年も遅れ、科学的根拠よりも慎重主義の色濃く影響する伝統がありました。科学的根拠が十分に揃っている5,000ppmがいまだに登場しないのも、その伝統によるものだと思います。
では、なぜこの5,000ppmフッ化物入り歯みがきペーストの到来が待たれているのでしょうか。それは、高齢社会が進む中で、だ液分泌量が減少するドライマウスの患者さんや、糖尿病などの基礎疾患を抱える方が増えながら、残っている歯の数も増えているからです。
高齢者は、特に歯ぐきが下がってくることで歯の根がむき出しになり、そこにできる根面むし歯が大きな問題でもあります。根面には硬いエナメル質がなく、むし歯が早く進行しやすいです。治療も難しいため、これが原因で歯を抜かざるを得ないことも少なくありません。将来的に、5,000ppmフッ化物入り歯みがきペーストが普及すれば、多くの方が健康な歯を長く保つことができるでしょう。
もちろん、この濃度のフッ化物入り歯みがきペーストは、すべての方に推奨されるわけではありません。特に顎の骨の中で歯の形成が終わっていない16歳未満の子どもには禁忌です。歯のフッ素症の副作用が考えられるからです。使用にあたっては、適切な使用方法と用量について、歯科医師や歯科衛生士の指導を受けることが大切です。認可されている国でも、処方箋が必要な国もあります。
日本の専門家らの間では、海外の研究や安全性データを参照して、薬事規制の見直しを呼びかけています。この強力な「武器」が手に取りやすい環境が整うことが期待されます。
最後に、注意していただきたいのは、むし歯は多くの因子が関わっている病気です。どんなに高濃度の歯みがきペーストを使っても、他の因子が影響してむし歯になってしまうこともあります。正しい食習慣を確立して、定期的な歯科メインテナンスも欠かしてはなりません。5,000ppmフッ化物入り歯みがきペーストは、あくまで一つの強力なツールとして、口腔ケアの選択肢が広がることを心より願っています。
画像説明
5,000ppmフッ化物入り歯みがきペースト、Duraphat® (コルゲート社)。
参考文献
- Duraphata®リーフレット(スウェーデン語)
- Walsh T, Worthington HV, Glenny AM, Marinho VC, Jeroncic A. Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019 Mar 4;3(3):CD007868.
筆者プロフィール

Makiko NISHI
西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
1996年 | 大阪大学歯学部卒業 |
大阪大学歯学部歯科保存学講座入局 | |
2000年 | スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員 |
2001年 | 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務 |
2007年 | アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了 |
Master of Dental Public Health (MDPH)取得 | |
2010年 | NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長 |
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」) | |
2018年 | 同大学院博士課程修了 |
Doctor of Philosophy(PhD)取得 |
