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唾液のひみつ

 お口の健康を維持するために大切な唾液は、そこにあるのが当たり前のことと思われがちです。でも、唾液が少なくなったり、ほとんど出なくなると困ることがたくさんあります。そして、それは年齢を重ねるごとに、多くの人がそのような状態になっていきます。

 唾液は、唾液腺によって生成され、ほとんどが水分で構成されているため、透明で水のような液体で、お口の中の食べ物やバイキンを洗い流すことにより、清潔に保ってくれます。これは想像に難くないですね。その中には、デンプンを麦芽糖に分解する酵素、アミラーゼが含まれているため、消化を助けてくれます。また、微生物を撃退してくれる免疫グロブリン、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ、リゾチーム、スタテリン、ヒスタチンなどの抗菌物質や、お口の中の組織の成長と再生を促進する成長因子まで含まれています。

 むし歯の予防に重要なポイントとしては、唾液には、pH バランスを維持する重炭酸イオンなどがあるので、むし歯の原因となる酸を中和してくれます、また、脱灰した歯のエナメル質を再石灰化するカルシウムイオンとリン酸イオンが含まれています(脱灰と再石灰化については「水は最高の飲み物」をご覧ください)。むし歯菌を撃退する上述の抗菌物質が含まれていることも忘れてはなりません。

 そのような抗菌物質は、歯周病の予防にも重要で、お口がいつも開いているような状態だと、上の前歯に歯周病がよく見られます。唾液が乾いてしまうからなのです。唾液の中の成分は、悪いバイキンたちと日夜戦い、壊れた歯ぐきの組織を修復してくれているのですね。唾液が乾いて食べ物やバイキンを洗い流してくれないと、それらが歯に蓄積してバイオフィルムがねっとりくっつくこともよくありません(バイオフィルムについては「どうして歯磨きするの?(2) ―歯周病編」をご覧ください)。

 唾液には2種類あります。1つは「刺激唾液」。これは食べ物を咀嚼するなどの刺激に反応して分泌される唾液のことです。 このタイプの唾液には、重要な重炭酸イオン、酵素、その他の化合物が多く含まれています。 もう1つは「安静時唾液」。こちらは刺激とは関係なく、お口の中に常に存在している唾液です。 湿った環境を維持するために重要ですが、刺激唾液ほど重要な成分は含まれていません。

 唾液の量には個人差があり、むし歯や歯周病や口臭のなりやすさ(リスク)に影響しますので、歯科医院で「刺激唾液」の量を測って、ドライマウスの程度を評価することがあります。典型的には味のないワックス片を5分間噛んでもらいます。それによって刺激唾液の分泌率が分かるわけです。5分間で3.5ml未満だと、むし歯のリスクが高いといえるでしょう。

 全身疾患のお薬の中には、副作用で唾液の量を減らすものが多くあります。そのために、高齢になると唾液量がこの危険域まで達する人の割合が増えます。その他、シェーグレーン症候群の人や、頭頸部の放射線治療を受けた人も、唾液が極端に少なくなってしまいます。お口の健康状態をモニタリングするために、歯科医院で唾液の量を測ることは非常に大切です。


写真説明

アイルランドの仔牛たち。よく噛むと唾液がたくさん出ます。


References


  1. Dawes C, Wong D. Role of saliva and salivary diagnostics in the advancment of oral health. J Dent Res. 2019;98(2):133-141.

  2. Ericsson Y, Hardwick L. Individual diagnosis, prognosis and counselling for caries prevention. Caries Res. 1978;12 Suppl 1:94-102. Epub 1978/01/01.

筆者プロフィール

Makiko NISHI

西 真紀子 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長

1996年 大阪大学歯学部卒業
     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
2001年 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務
2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了
Master of Dental Public Health (MDPH)取得
2010年 NPO法人「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」(PSAP)理事長
2018年 同大学院博士課程修了 
   Doctor of Philosophy(PhD)取得