見えない脅威、分岐部病変とは
歯周病は多くの大人がかかっている病気ですが、その中でも特にやっかいなものに「分岐部病変」という問題があります。これは、奥歯の根っこが分かれている部分、いわゆる「分岐部」に起きる病気のことです。治療がとても難しく、ひどくなると歯を失う原因にもなるため、特に注意が必要です。
奥歯、特に大臼歯は、1本につき通常、複数の根っこがあり、しっかりと顎の骨に根付いて、奥歯で強く噛むことにも対応するようにできています。上あごの大臼歯は重力に逆らって生えているためか、3本、時には4本の根っこがあり、下あごの大臼歯は2本の根っこに分かれてることがほとんどです。歯科医師が何らかの理由で歯を抜かなければならない時は、根っこが1本しかない前歯よりも、根っこが多い歯の方がずっと抜きにくいです。
ところが、歯周病になると奥歯はこの複雑な根の形が仇になります。歯の周りの組織が破壊され、分岐部の周りの骨まで失われると、細菌がそこに入り込みやすくなり、より掃除しにくくなり、その結果、病気がさらに進行します。
ホームケアで使う歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロスのどれもが届きにくく、汚れがたまりやすいので、細菌が繁殖してバイオフィルムが成熟します。専門家によるプロケアでも通常使うストレートな器具では到達できないので、クルッと曲がった器具を差し込んで掃除をしますが、難易度が高く、手術をして状況を改善しなければならない場合も多くあります。
「分岐部病変」は歯ぐきの奥深くで起きるため、最初のうちは見つけにくいです。症状があまりないため、気づいたときにはかなり進んでいることがよくあります。病気が進んで分岐部が大きく露出すると、完全に治すのが難しくなります。そのため、治療をしても再発のリスクが残ることが多いです。「分岐部病変」を放っておくと、どんどん進んでいきます。歯を支える骨がなくなり、最終的には歯がぐらつき、抜け落ちてしまいます。奥歯を失うと、噛む力が激減し、硬い食べ物を食べる楽しみが失われます。
「分岐部病変」を早く見つけるには、歯科医院での定期健診が大事です。専門的な道具やX線写真を使えば、早い段階で問題を見つけることができます。そして、歯科衛生士による掃除で、ホームケアでは落とせない汚れや歯石を取ってもらえます。特に分岐部のような掃除が難しい場所は、プロの力に頼ることが必須であり、定期的な来院間隔は3ヶ月に1度など、なるべく短くすることが望ましいです。
ホームケアでは電動歯ブラシや歯間ブラシを使って、普通の歯ブラシでは届かない場所もできるだけきれいにしましょう。自分に合った掃除方法を歯科医や歯科衛生士に相談するのもおすすめです。
「分岐部病変」は、見えない場所で進む厄介な病気ですが、急に発症するものではないため、そこに至るまでの予防が最も簡単で効果的な対策です。まさに「予防に優る治療はなし」。日々のケアと歯科医のサポートを活用して、健康な歯を守りましょう!
画像説明
複数の根が枝分かれしてしっかりと地面に根ざす大木。奥歯の根も何本かに分かれて歯をしっかりと支えているものの。。。
参考文献
- Peeran SW, Ramalingam K, Sethuraman S, Thiruneervannan M. Furcation Involvement in Periodontal Disease: A Narrative Review. Cureus. 2024 Mar 10;16(3):e55924.
- Magnucki G, Mietling SVK. Four-Rooted Maxillary First Molars: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Dent. 2021 Jan 20;2021:8845442.
筆者プロフィール

Makiko NISHI
西 真紀子 NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」)
1996年 | 大阪大学歯学部卒業 |
大阪大学歯学部歯科保存学講座入局 | |
2000年 | スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員 |
2001年 | 山形県酒田市 日吉歯科診療所勤務 |
2007年 | アイルランド国立コーク大学大学院修士課程修了 |
Master of Dental Public Health (MDPH)取得 | |
2010年 | NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長 |
(旧称 「最先端のむし歯・歯周病予防を要求する会」) | |
2018年 | 同大学院博士課程修了 |
Doctor of Philosophy(PhD)取得 |
